弾劾追及、ついに強気大統領の目に涙
2019年11月13日
11月13日(水)6時0分 JBpress
強気のトランプ大統領、記者団の前で涙
どこまでも強気の姿勢を崩さなかった米国のドナルド・トランプ大統領が、ついに人前で涙を浮かべた。
(https://thehill.com/homenews/administration/469722-trump-rips-impeachment-probe-witnesses-in-early-twitter-spree)
自分が批判されると、倍返しで相手を激しく罵ってきたドナルド・トランプ大統領が記者団の前で涙顔になったのだ。
連日怒涛のごとく押し寄せる弾劾追及の動きに「すべてはサーカス、茶番劇だ」と強がっているが、さすがのトランプ氏も迫り来る危機に夜も寝れないのではないだろうか。
下院情報委員会はこれまで非公開で実施してきたトランプ政権の当局者との聴聞会議事録を次々と公開し始めた。
13日から委員会での聴聞会を公開する。テレビ中継が始まる。
最新の世論調査では民主党支持者ばかりではなく、民主、共和両党に属さない無党派層の63%がトランプ弾劾にゴーサインを出した。
与党共和党内にもトランプ離れの動きが顕著になってきた。
そうしたなか、大統領の長男、ドナルド・ジュニアがツイッターでホイッスルブローワ(内部告発者)の名前を公表した。
「トランプ政権に今もいる内部告発者の名前はエリック・チャラメラだ。中央情報局(CIA)の分析官。バラク・オバマ政権の国家安全保障会議(NSC)スタッフだった」
米国には内部告発者を保護する法律がある。告発者の実名を公表したものは罰せられる。
ドナルド・ジュニアはそれを承知で(あるいは捕まっても父大統領が恩赦してくれるとでも思っているのか)実名を暴露した。
父の危機を救うために「内部告発者」の正体を明かし、議会民主党の弾劾の動きに水を差すつもりなのだろう。
あるいは大統領に直接そうやるように指示されたのか、その辺は今一つ分からない。
米メディアはこれまで実名を明かしたことはない。違法行為だからだ。従ってドナルド・ジュニアのツイッターそのものを報じる主要メディアは一つもない。
ところが、このツイッターをフォローする人が爆発的に増えたため、メディアが報じずとも、たちまちのうちに拡散している。
ワシントンの消息筋によると、内部告発者がチャラメラ氏ではないのか、といった憶測は過去数週間、ワシントン政界には口コミで流れていたという。
チャラメラ氏は現在33歳。名門イエール大学を卒業後、CIAに入局。オバマ政権下NSCに出向。ロシア語、ウクライナ語、アラビア語が堪能で、NSCではウクライナ担当官として対ウクライナ政策の立案に携わった。
トランプ政権になって一線から外され、CIAに復帰したが、ウクライナ関係の情報は常に掌握していた。
その際にトランプ大統領とウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領との「問題の電話会談」に関する情報を目にしたわけだ。
外交を選挙に絡ませるトランプ氏の違法行為を情報機関査察官に報告。これが発端で今回の「ウクライナゲート疑惑」事件となった。
中立系の政治情報サイト
「リアルクリア」が実名報道
その憶測の背景を克明に報じ、内部告発者の実名を最初に報道したのは、「リアルクリア・ポリティクス」*1の調査報道部門の「リアルクリア・インベスティゲーションズ」だった。
「実名を明かすることは公共の関心事だ」という理由で公表したという。
(https://www.realclearinvestigations.com/articles/2019/10/30/whistleblower_exposed_close_to_biden_brennan_dnc_oppo_researcher_120996.html)
*1=「リアルクリア・ポリティクス」は米国内政治、国際政治などの情報、分析記事をダイジェストしてオンラインで流す有力サイト。各種世論調査を総括的に掲載している。政治的には保守穏健派で、影響力は極めて大きい。
トランプ・ジュニアはこの「リアルクリア・インベスティゲーションズ」の記事を鵜呑みにしてツイートしたのだ。
反応は大きく、「この内部告発者を議会証言させるべきだ」と主張する議会共和党議員が日増しに増えている。
(https://www.msn.com/en-us/news/politics/trumps-allies-turned-to-online-campaign-in-quest-to-unmask-ukraine-whistleblower/ar-BBWpV4H)
だが、下院の多数決を占める民主党は法律をタテに拒否。13日から始まる「ウクライナゲート疑惑」追及の公開聴聞会の場で両党による激しい論戦になりそうだ。
実名暴露は時間の問題
「ウクライナゲート疑惑」の告発者はホイッスルブローワとしては初めてではない。すでに第1号、元祖がいる。
昨年、ニューヨーク・タイムズのオピニオン欄に「トランプ氏は大統領の資格なし」とするエッセイを書いた現職の政府高官がいるからだ。
自らを「アノニマス」(匿名)と称している。
名前も役職もべールに包まれている。ただワシントン界隈では、国防総省や情報機関に勤務する高官ではないかといった憶測が有力だ。
その高官が件のエッセイの論旨を軸に大幅に加筆した本を上梓、19日に発売する。
謎の筆者アノニマスは、今この瞬間もトランプ政権内部で政策立案、政策遂行している政府高官である。
前高官とか元高官ではない。正真正銘の現職だ。
このアノニマス氏がニューヨーク・タイムズに「私は政権内にいるが抵抗勢力の一員だ」と書いたのは昨年9月5日。
(https://www.nytimes.com/2018/09/05/opinion/trump-white-house-anonymous-resistance.html)
アノニマス氏は「トンプ氏は、12歳程度の知的能力しかない」と断定してこう書いている。
(米国で12歳という表現は、見かけは成人でも少年期の知的能力、判断力しかないという意味とされている。我々日本人には、占領下の時ダグラス・マッカーサー元帥が「日本人は12歳」と馬鹿にした記憶は今も忘れられない)
「まさに12歳の子が空港の管制塔に入り込み、ボタンを手当たり次第に押しているようなものだ。飛行機が滑走路から外れようと離着に失敗しようと全くお構いなし。それがトランプ大統領なのだ」
では、国民はどうすればいいのか。アノニマス氏はすぐに大統領を弾劾したり、辞任に追い込むのは難しいと考えている。
いずれにしても2020年には米有権者はトランプ大統領を再選させるか否かの決断しなければならない。トランプ氏を辞めさせるのはその時だと説く。
「トランプに票を入れた有権者の皆さんに告ぐ。この男を2020年の大統領選で再選させることは絶対にやめてほしい」
「この国を滅ぼし、国際秩序をめちゃくちゃにするからだ。有権者の責任として、国益を考えた行動をしてほしい。特に2016年、トランプ氏に票を投じた3600万の有権者の人たちは真剣に考えてもらいたい」
大統領の政策を実現させるな
身近に見るトランプ大統領はどんな人物か。現職政府高官として時の大統領にどう対処しているのか。歯に衣を着せぬ表現でこう記述している。
「非道徳で、衝動的なトランプ大統領は、事柄に対する理解が不十分なまま無謀な判断を重ねている」
「政権内で働く私を含む一部政府当局者たちは、大統領の最悪な性向から国を守るために大統領の政策目標をたとえ部分的であっても実現させないよう努力している」
「私がこの本を書くことを決めたのは、これが私自身だけではなく、国民全体の問題だからだ」
「(実名で告発しないことについて)ある人は私のことを『臆病者』と呼ぶだろう。そう呼ばれようと私は全く傷つかない」
「まだ実名でトランプ大統領を批判する用意はできていない。だが、将来は名前を明かす。実名でトランプ氏を糾弾するつもりだ」
「ニューヨーク・タイムズへの寄稿文で『私はトランプ政権にいる一人ぽっちの静かな抵抗者だ』と書いた」
「また、『トランプ政権で働く官僚や政治家・閣僚たちは、トランプ大統領を長期的視野に立って正しい方向に向かって歩かせようなどとは全く考えていない。トランプ流政治を洗練させることなどできっこないと考えている』と書いた」
「しかし、今となっては、こう書いたことは間違っていたと痛感している。自分たちには微力しかないが、大統領の政策が実現しないように一生懸命努力している官僚が政権内にいるのだ」
「毎日のように大統領が書き込むツイッターについて政権内の高官たちはどう感じているか」
「政府高官たちは、毎朝、大統領がツイッターで明らかにしたワイルドな政策発表に起こされ、仰天している。中身を見て政府高官たちは唖然とし、失笑し、そしてまごつく。例えればこんな具合だ」
「老人ホームに伯父さんを訪ねたとしよう。そうしたら伯父がパンツを脱いだまま園内をうろつき、『ここの飯は不味くて食えん』とわめいている。そんな光景を毎日見るようなものだ」
「政府高官が朝快適に目を覚ませるのは、伯父さんがちゃんとパンツをはいたまま朝まで寝ていてくれる日、ツイートしない朝だけだ」
トランプ政権で働いている政府高官たちは何も大統領の政策にだけ腹立たしく思っているわけではない。
トランプは単細胞で度し易し
アノニマス氏はこう書いている。
「大統領が女性の容姿や立ち振る舞いについて喋るのを聞いていると不快になってくる。大統領は女性についてのダーティ・ジョークを連発する」
「女性の着ているものについても容赦なくコメントする。大統領の周辺にいる女性たちを呼ぶときは名前ではなく『スイーティー』(かわいい子猫ちゃん)とか『ハニー』(妻や恋人への呼びかけ)とか言う」
「これはボスが職場の女性には絶対に使ってはならないタブー表現だ。人種差別発言も止まらない」
「『(メキシコ国境を越えて米国にやって来る不法移民の)女は子供7人を連れて越境してい来るんだ。彼女はどうぞ助けてください。夫は逃げてしまっていませんと言う』」
「『(こういう不法移民は)使い物にならんな。もし夫や連れ添いの男でもいれば、農繁期の畑でトウモロコシでも取るのに労働力になるんだけどな』」
12歳の知的能力で女性蔑視・人種差別するトランプ大統領の外交についてアノニマス氏はこう指摘している。
「トランプ氏は、米国が未曽有の外交的危機に直面した時に大統領としてどうすべきか、全く分かっていない」
「その能力がないのだ。米国を敵対視している外国の首脳たちはトランプ氏を『単細胞で騙しやすい人物』と見ている」
「2018年、サウジアラビアのジャーナリスト、ジャマル・カシオギ氏がサウジの工作員に殺害された時のことだ」
「大統領はいろいろ助言を与えようとしたアドバイザーたちの発言を遮ってこう言い放った」
「『この問題でサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子とことを構えることがどれほど馬鹿げたことか、君たちは分かるか。石油価格は1バレル155ドルに高騰する』」
「トランプ大統領は2017年9月、中東・アフリカのイスラム圏6か国からの米国への入国を禁ずる大統領令を出した。これに対してハワイ州などの連邦地裁が入国規制を差し止めた」
(その後、最高裁がトランプ大統領の入国規制を合憲だとして支持する判決を下した)
「これに怒ったトランプ大統領は法律顧問たちにこう怒鳴った。『(大統領令に反対する州の)あいつら判事を辞めさせられないのか。存在価値のない輩だ』」
「トランプ氏は政府がどう機能するか、十分には分かっていなかった。本来なら国務長官がやるべき職務を国防長官に命じたり、その逆もあった。司法長官に国家情報長官がやるべき仕事を指示した」
「ある時は娘婿のジャレッド・クシュナー上級顧問にいくつもの仕事を同時に言いつけていた。米国のイメージを変えろと言ったかと思うと、在郷軍人問題、中東和平工作、司法制度の改革、同盟国とのデリケートな交渉事に至るまで同時にやれ、と命じていた」
裁判所のお世話になってばかり
これほどの「バカ殿」に仕える閣僚や高級官僚たちは一度たりとも辞めさせることを考えなかったのか。アノニマス氏はこう書いている。
「トランプ政権の閣僚の大多数は一時、憲法修正第25条*2を盾にトランプ氏を大統領職から追放する準備したことがある。(具体化すれば)マイク・ペンス副大統領もこれには賛同したかもしれない」
*2=憲法修正第25条は、複数の主要閣僚(国務長官や国防長官など)が大統領が大統領としての機能を全うできないと判断し、全閣僚の大多数がこれに同意すれば大統領を辞任させることができることを明記している。
もっともペンス副大統領はこのくだりの真偽を問われて否定している。
かつて連邦高裁の判事だったシアトル在住の75歳の男性は筆者にこんなコメントしている。
「ホイッスルブローワの実名を巡る法律論争は今後白熱するだろう。それにアノニマス氏の名前が明かされるのも時間の問題だ」
「トランプ政権はこの2人と民主党との関係を徹底的に追及してトランプ氏の弾劾が党派的な政治闘争であると世論に訴え、来年の選挙にもっていこうとする戦略だろう」
「しかし結論はなかなか出ない。そこで最終判断は最高裁ということになる可能性大だ。しかし考えてみると、トランプという大統領ほど憲法や法律(違反疑義)にご厄介になる大統領は前代未聞だ」
「米国民は2016年に大変な人間を大統領にしてしまったもんだ」
筆者:高濱 賛
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