財務省が密かに進める「徳政令」プラン
2019年06月03日
新紙幣を早期発表した本当の理由
新元号「令和」の発表からほどなく、5年後の2024年度上期に新紙幣を発行することが麻生太郎財務大臣から発表された。モデルチェンジするのは1万円、5千円、千円札の3種類で、500円硬貨も刷新される。新紙幣の絵柄に描かれる人物は1万円札が渋沢栄一、5千円札が津田梅子、千円札が北里柴三郎になるという。
紙幣の人物像は明治以降の著名な文化人から選ばれるのが通例だが、日本円の象徴である新1万円札の顔に、朽ち果てつつある「日本資本主義の父」といわれる渋沢栄一を選ぶセンスはどうかと思う。21世紀は人材の時代なのだから、「学問のすゝめ」の福沢諭吉先生に3度目の続投をしてもらってもよかった。
それにしても、なぜこのタイミングで紙幣の刷新を発表したのだろうか。
紙幣の大幅なデザイン変更は、ほぼ20年おきに行われてきた。定期的に刷新する基本的な目的は偽造予防。20年も経過すると紙幣が古びてくる一方で、印刷技術などが進化して、偽造リスクが高まる。そこで最新の造幣テクノロジーを詰め込んだ新紙幣に切り替えるのだ。
前回の刷新は04年。前々回は1984年だった。従って次の刷新が24年に行われるのは周期的には妥当といえる。とはいえ、5年後の新紙幣発行をなぜ今の段階で発表したのだろうか。
新紙幣の切り替えにはそれなりの準備が必要だ。一番のネックはATMで、私はATMメーカーのコンサルタントを何十年とやっていたから、その苦労をよく知っている。真贋鑑定をしたり、お札の枚数をきちんと数えたり、2枚重ねで送り出さないようにする技術というのは実は結構難しくて、設計変更および据え付けなどに数年はかかる。そうはいっても04年の刷新では政府がアナウンスしたのは2年前だから、5年の準備期間は長すぎる。
19年4月の統一地方選挙、福岡県知事選で麻生財務大臣が支援していた自民党の推薦候補が敗れた。新紙幣発行の発表がその直後だったことから、麻生氏が失地回復を狙ったという見方もあるようだが、まったくの的外れだと思う。
さらに卑近な目的として囁かれているのが衆参ダブル選挙である。元号が改まり、紙幣の刷新を発表して新しい時代の風を吹かせることで、気分一新、長期政権に対する「倦(う)み」を払拭し、令和最初の国政選挙をダブル選挙にして与党有利な展開に持ち込む。こちらは半分くらい当たっている気がしないでもないが、時の政府や政治家の卑近な都合で財務省という官僚機構はそう易々とは動かない。
今回の新紙幣の切り替えは用意周到で、財務省が時間をかけて準備してきたことがうかがえる。政権に忖度したり、現職の財務大臣に花を持たせるというより、改元という絶好のタイミングが巡ってきたので発表したということだろう。5年の猶予を設けた理由は、財務省が日本国債の暴落を念頭に置いているからではないか、と私は推測している。
前回04年に紙幣を刷新したときは、90年代後半から世界的な金融危機の流れが日本にも波及していた。国債暴落による日本発の金融危機が懸念されて、財務省は紙幣刷新を利用した対応策を密かに練っていた。いろいろな応用問題があるが、一例としては新紙幣と旧紙幣を交換するときに、旧紙幣で1万円分を入れると8000円分の新紙幣しか戻ってこないような技術をATMメーカーに検討させていたのだ。
日本には50兆円規模のタンス預金(家庭のタンスや金庫で保管している現金)があるといわれている。たとえば「1年後には旧紙幣は使えなくなります。早めに新紙幣に取り替えましょう」とアナウンスすれば、これが炙り出されてくる。
浮き出てきたタンス預金自体に景気浮揚効果があるという指摘もあるが、新紙幣と旧紙幣を交換する際に2~3割をパクる、いわば「徳政令」を実施できれば国家財政としては大いに助かる。
04年の紙幣刷新のときに財務省は国債暴落対策を密かに狙っていた。しかしATMメーカーから設計図面の情報が漏れて、議員からの問い合わせで大騒ぎになり、財務省は断念せざるをえなかった、といわれている。幸い、国債の暴落危機が遠のいて、沙汰止みになったのだ。今の日本国債のデタラメな発行ぶりを考えると、財務省が5年以内の暴落に備えて国民の資産をパクる「徳政令」の準備をしていても不思議ではない。
成熟した日本は、消費税よりストック課税を
金融危機の対応策はもう1つある。国民の金融資産および固定資産に対する課税である。19年10月に消費税が10%に上がるが、今後、消費増税以外に税収を確保する手段は資産課税しか残されていない。
旧紙幣を使えなくして新紙幣に切り替えさせれば、誰がどれくらいの金融資産を持っているか、課税の母数がハッキリする。日本人の個人金融資産は約1800兆円ある。1%課税すれば18兆円。消費税を2%上げてみたところで税収は5兆円程度だから比べものにならない。成長期を終えて成熟期に入った日本では、もはや所得税や法人税といったフロー課税は頭打ち。課税強化は活力を削いで、個人や企業の国外脱出を招くだけだ。日本で増えているのはストックだけなのだから、フロー課税から不動産や金融資産を課税対象にしたストック課税にシフトしていかなければ、財政は立ち行かなくなるのだ。
国民の固定資産と金融資産、企業の固定資産や内部留保などを全部合わせると資産総額は5000兆円を超える。これに一律1%の資産課税をすれば50兆円になる。
さらに付加価値税を導入する。消費に対して課税する消費税ではなく、経済活動に伴って発生する付加価値に対して課税するのだ。すべての流通段階で一律10%の付加価値税を導入すれば、日本のGDPが年間約500兆円だから、50兆円の税収が見込める。
資産税と付加価値税を合わせて100兆円。財務省がこれを狙っているとしても不思議ではない。その代わり法人税、所得税、相続税はもちろん、不動産取得税、自動車重量税、ガソリン税、たばこ税など意味不明な税金はすべて廃止する。資産を持っている人ほど資産税がかかるから、金持ちはどんどんお金を使おうとし、個人消費も活性化する。簡単に言えば、これが私の昔から提案してきた税制改革である。
従って、財務省が金融資産に対する課税を考えているとすれば、私は基本的には賛成だ。5年も猶予を持って新紙幣を発表したのは、世界的な金融危機が国家財政の脆弱な日本を直撃した場合に、極めて短期間で金融資産課税を導入する、という目的が隠されているのだろうと私は推測している。
世界的なキャッシュレス化の流れに逆行している
新紙幣発行は世界的なキャッシュレス化の流れに逆行している、という指摘もある。アジアのキャッシュレス先進国といえば中国。スマートフォン経済に転換して、モバイル決済が普及した中国では、キャッシュレス化が爆発的に進行した。しかし、昨今はキャッシュレス化の弊害も出てきている。中国では顔認証(生体認証)が高度に進んで、スマホすら持たずに「顔パス」でほぼ食事や買い物ができる。ということは個人の持っている資産と顔認証が一致しているということだ。認証データは共産党との共有が義務づけられているから、個人資産からショッピングの内容まですべての個人情報を中国政府が握っているわけだ。
この先、中国はどんどん犯罪がしにくい国になるだろう。常に資産とカネの流れを政府に捕捉されるから、課税逃れもできなくなる。キャッシュレス社会の利便性の背後で、ジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』で描かれるような監視管理社会にからめ取られていることを、中国の人々はひしひしと感じていることだろう。
ただし、キャッシュレス化が遅れている日本で、時代錯誤な新紙幣発行にも、金融危機に対処する財務省の魂胆が込められているとすれば、これは国が紙幣を使って財務危機を乗り越える最後のチャンス、ということはよく理解しておいたほうがいいだろう。
国の借金を増やしている
人口減社会に突入して勤労人口が減っているにもかかわらず、政治家は節操もなく100兆円予算を組み続けて、国の借金を増やしている。日本はGDP比の公的債務が230%超でOECD加盟国で断トツ。2位のギリシャが180%超だからぶっちぎりだ。それでもなお選挙対策優先で赤字予算を組み続けることに、財務省は警告を発し続けてきた。しかし、たるんだ政治家は規律を持たず、消費増税も引き延ばしてきた。それどころか、安倍政権は官邸に人事権を移して、官僚を思い通りに動かそうとする始末。
財務省としては忸怩たる思いがあるが、それでも国家の財政破綻だけはなんとしても避けなければならない。しかし何を言っても政治家はまともに取り合ってくれない。だから、「(財政破綻という)有事に備えておきます」というのが、今回の新紙幣発行なのではないか、というのが私の解釈だ。
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