サイゼリヤの客離れが「全席禁煙化のせい」という説はどこまで本当か
2019年06月04日
サイゼリヤで報じられる苦境
「11ヵ月連続マイナス」の原因とは
外食産業の成長株だと思われていたサイゼリヤが、苦境にあります。既存店売上高が11ヵ月連続で対前年比マイナスになったというのです。そしてその一因が、ひょっとすると昨年7月に打ち出した「全席禁煙」ではないかという報道がされています。
一方で、ほぼ同時期、昨年6月に全席禁煙に踏み切った串カツ田中では、逆に禁煙化によって「成果が出た」と報道され、全席禁煙は外食産業にとってプラスになるというイメージが広められました
一体全体、全席禁煙は外食産業にとってプラスに働くのか、それともマイナスに働くのか、どちらなのでしょう。2020年の東京オリンピックに向けて、これから外食産業における禁煙の動きはより活発になると思われます。それも踏まえて、禁煙化と売り上げの関係について考えてみたいと思います。
まずは、足もとで不調が取り沙汰されているサイゼリヤの状況を見てみましょう。サイゼリヤの既存店の売上減に関しては、実は面白いほど一貫した特徴があります。売上高は客数と客単価に分解できますが、売り上げが減少した11ヵ月の間、客数は一貫してマイナスとなり、その一方で客単価は一貫して微増を維持しているのです。
そしてその数字は、それほど大きな振れ幅ではないというのがもう1つの特徴です。客数は11ヵ月平均で2.4%のマイナス、客単価は同じく11ヵ月平均で0.4%のプラス。平たく言えば「お客さんの数は100人から97~8人に減ったけど、お客さんが使うお金はほとんど変わっていない」という表現に近い状況が、11ヵ月続いているのです。
とはいえ、客数が一貫して減っているのは事実なので、「やはり一定数のお客さんが禁煙化で客離れになったのではないか」という疑問は出てくるでしょう。
この全席禁煙の影響ですが、要素を分解すると、禁煙になったのでお店を使わなくなった(離れた)顧客の数と、逆にタバコを吸う顧客がいなくなったのでお店を使うようになった(増えた)顧客の数の差し引き、ということになります。
日本人の成人(男女合計)の喫煙率は18%ですから、単純に考えると、サイゼリヤでは離れた客の数も増えた客の数も、実際の増減のマイナス2.4%よりも多いであろうことが推測されます。
全席禁煙を打ち出す前も
客数は一貫して減少していた
さらに、もう1つ気をつけなければいけないことが、この2.4%減は禁煙の影響だけではないということです。11ヵ月連続ということで言えば、全席禁煙を打ち出す前の時期でも、サイゼリヤの客数は一貫して減少していたことになります。
サイゼリヤの場合、2018年7月下旬に全国約1000店舗のうちの約300店舗で全席禁煙が始まり、今年9月までに全店での全席禁煙化を完了する予定になっています。禁煙化が始まった2018年8月から直近(2019年2月)までの7ヵ月に限っていうと、客数の減少率は2.0%。そしてその1年前となる、禁煙化と関係がない2017年8月から2018年2月までの客数の減少率は1.1%です。
そう考えると、禁煙化の悪影響はせいぜいその差の1%未満(単純計算で0.9%)。となり、禁煙の影響が既存店売上高の大きなマイナス要因とまではいいにくい気がします。
では、禁煙がプラス効果になったという串カツ田中のデータを見てみましょう。こちらは2018年6月に全面禁煙を行ったところ、むしろ客数が大幅に増えたという報道がありました。2018年5月における客数は対前年比で4.5%マイナスだったのが、6月には2.2%のプラスと大きく(6.7ポイント)改善したので、そう報道されたようです。
そこで、先ほどと同じような考え方で、全席禁煙になった2018年6月から直近の2019年2月までの既存店における客数増のデータを見てみると、4.5%どころではなく、平均で7.2%ものプラスになります。この数字を見ると、結構スゴイように思えますが、実はそうとも言えません。
まだ喫煙可だった1年前の同時期、2017年6月から2018年2月の客数は6.1%の高水準にあるからです。つまり、串カツ田中はそもそも成長を続けている会社なのです。
そして、前述の2つの時期の差を単純に計算すると、増えたのは1.1%なので、禁煙がプラスに働いた分はサイゼリヤ同様、やはり微妙な数字だったと言えそうです。
外食の浮沈の激しさは
こんなものではない
そもそも外食産業の興亡は、もっと数字的に激しいものです。直近2月の全店での対前年売上比を各社について拾ってみると、好調のコメダ珈琲が8.5%、スシロー8.8%、マクドナルドが3.6%。それに対して苦戦しているチェーンでは、天丼てんやがマイナス4.6%、吉野家がマイナス4.7%、モスバーガーはマイナス5.0%という振れ幅です。サイゼリヤが直近でマイナス0.7%の売上減だということは、業界全体で見れば異変というほどの出来事ではないわけです。
ただし、です。前述のように、日本の成人男性の18%が喫煙者だという事実を考えると、これから先、オリンピックに向けたグローバル規制により、外食各社で一斉に禁煙化が進むマイナス影響は、少なくないと考えるべきでしょう。
タイミング的には、他社を横目で見ながらいつ踏み切るかが、マーケティング政策的にいえば、「喫煙者がいないプラスをアピールすることによる顧客増」と「これまで来店してきた喫煙客の離脱によるマイナス」について、前者をなるべく増やし、後者のダメージをどう減らすかが、考えどころになってきます。
特に喫煙者をブレークダウンすると、男性が28%、女性が9%なので、その偏りを考慮することも重要です。女性顧客がメインのお店ではプラス効果が大きいし、男性顧客がメインの居酒屋のようなお店ではマイナス効果の方が大きいわけです。
各社が進める地道な取り組み
喫煙者を繋ぎ止める秘策とは
サイゼリヤの場合、ワイン1本が1000円、デカンタが200円、グラスワインが100円とアルコールの価格がとても安いため、これまでも「ちょい飲み」で来店する顧客が多いことが知られていました。よってサイゼリヤにとっては、全席禁煙は居酒屋と同じ打撃があったかもしれません。
その点で、サイゼリヤは面白い対策を考えています。全席禁煙になったお店に、今後は新幹線と同じように喫煙ルームを設けるというのです。これは東京都の禁煙条例で許されている施策ですが、全席禁煙のマイナスが大きい業態にとっては重要な対応策です。
そして、今は全面禁煙への移行期なので、お店ごとに顧客が増えた、減ったと一喜一憂がありますが、最終的にすべてのチェーンが同じ法律に従うことになる2020年には、少なくとも東京都に関してはプラス効果もマイナス効果も消えてしまうはずです。
そう考えると、この問題は最終的には「喫煙者に支持されているお店は喫煙ルームを設置するべきだ」という、当たり前の考え方へと収斂していくように思われます。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
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