「いまAI分野で起業するなら何をすべきか」――冨山和彦の正解

カテゴリー/ フリースペース |投稿者/ ビレンワークアップ
2019年06月06日

 AIやIoTが躍進する時代に、働き方はどう変わる? ヒトの仕事が奪われるといわれるが、将来を見据えて選ぶなら何が正解か。企業再生の第一人者であり、産業界全体から見た人工知能に精通する冨山和彦さんに、これからを生き抜く心構えを一問一答式で訊く、全5回シリーズ。

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『AI経営で会社は甦る』(冨山和彦 著)
『AI経営で会社は甦る』(冨山和彦 著)

Q これから起業したいと思っています。AI分野で見込みがありそうなカテゴリー、キーワード、有望なIT系スタートアップを教えてください。

A ディープラーニング系、とくに“画像認識能力”に注目です。

 直近でいうならば、ディープラーニング系が伸びると思います。ディープラーニングでは、視覚認識、つまり画像認識能力が飛躍的に進化します。ディープラーニングが最も優位性を持っているのが、AIの“眼”にあたる技術だからです。たとえばAIを翻訳作業に使うときも、実は画像をあいだに噛ませて読み取らせています。ですから、ディープラーニングを視覚技術に応用する領域というのは、ここしばらくは面白いです。

 ただ、この先10年ずっとそれだけが続くかというと、そうでもない。大技術爆発が起きるときと、その後フラットになるときがあるからです。今のように世界中の超優秀な研究者、技術者が大勢集まって取り組んでいると、10年ぐらいできっとネタも尽きてしまうのではないか。

冨山和彦氏 ©平松市聖/文藝春秋

 むしろ長期的には、ものづくり系ですね。とくに面白いのは、アルゴリズムとハードウェアのかけあわせ。メカニズムです。さまざまな問題を統合的に解決する必要があるため、それなりに時間がかかる分野です。現在、YouTubeなどに、AIを搭載したロボットが上手に作業をしている映像が流れていますよね。でも、その映像をあのまま信じちゃダメです。あれはたぶん何回もロボットにやらせてみて、うまく成功した場面だけを流しているのです。

 いざ産業として実用化するとなると、そうは簡単にいきません。たとえば、クルマの場合を考えてください。世の中には何千万台も走っていますが、その1台でも事故が起きると困るわけです。となると、非常に高い精度のものを100万台単位で造れるようにならないとダメ。100万台単位で同じモノを再現して造るのと、ロボコン用のロボットを1個だけ造る、というのは、もう全然次元が違う話だからです。人の命に関わるような製品を、安全性や信頼性を担保して実現するということは簡単ではない。おしゃべりが得意なペッパーみたいな、脳にあたる機能だけで済むのだったらむしろ話は簡単なのですが。

©iStock.com

 さらにもうひとつ注目なのが、AIをしたたかに上手に使っていくベンチャーです。産業革命のときは得てして、それを発明した人間よりも、それをリアルの世界で上手に使った人間のほうが成功した話はよく聞きます。AIベンチャーを見極める時には、自分がAIについて、スーパープロフェッショナルである必要は全然ない。そのかわり、どこでどんなものがつくられて、どこでどういう人が出てくるかを評価する能力はあったほうがいい。あるいは評価する能力がある人間と友だちになっておいて、そのアドバイスをもとに本物を選べるといいです。中長期的にみて私が注目しているのは、トヨタや日立などとも協業している東大発のプリファードネットワークス、ロボットベンチャーのMUJINなどですね。

AIやIoTが躍進する時代に、働き方はどう変わる? ビットコインなどの仮想通貨が出てくる中、銀行など金融業は? 企業再生の第一人者であり、産業界全体から見た人工知能に精通する冨山和彦さんに、これからを生き抜く心構えを一問一答式で訊く、全5回シリーズの第2回(#1「AI時代の起業」より続く)。

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『AI経営で会社は甦る』(冨山和彦 著
『AI経営で会社は甦る』(冨山和彦 著

Q 金融業界で働いていますが、どのようにAI経営を進めていけばよいでしょうか。

A 既存の銀行モデルは大きく変わります。

 金融の機能には大きくふたつあります。ひとつが、決済。もうひとつが、預貸です。

 まずは決済について。すでに世の中に存在している社会的共有資産に乗っかって、ローコストで装置化しようという動きが進んでいます。フィンテックのコアテクノロジーとなるブロックチェーンなどは、まさにその例ですね。それから、媒介の機能についても、そもそも人間が介在する必要性があるか、という問題も出てきています。裏返して言うと、既存の銀行的なモデルというのは、通信の世界で言うダークファイバー――要は管(くだ)ですね――を提供するような公共財サービスと化していく可能性がある。従来は、ユーザーよりも銀行のほうが情報を持っているという非対称性があったため、銀行がいわゆるサヤを抜く、利益を上げることができたのですが、今後はそうはいかなくなる。

冨山和彦氏 ©平松市聖/文藝春秋

 ただ、銀行業務のすべてがなくなるわけではないです。決済をやらなくてはならないし、信用媒介をやらなくてはならないから。とはいえ、付加価値をどこまで上乗せできるかというと、それは疑問です。むしろ社会的な要請としては、最低限の機能でもって安全に事故なく責任を果たす、という役回りになっていく。電力でいうところの送配電みたいなものでしょうか。となると、巨大なシステム、支店網、それらを支える多くの人員が不要となる。おそらくいろんな再編統合も起きてくる。なにしろ公共財化してしまうわけですから。そのなかで、最後に残る部分は非常にお堅い仕事になるので、銀行員の方々はその仕事を自分の役回りとして心得て粛々と行う、となるでしょう。

©iStock.com

 もしくは、産業構造論的に言うと、公共財化していくなかで、みんなが使うようなコンポーネントをつくって、それを世界中に売って儲けるという道ももうひとつあるかも知れません。

Q AI時代に生き残れる人、生き残れない人の特徴は、それぞれ何でしょうか。また、冨山さんは中間管理職の8割は必要なくなるとおっしゃっています。生き残る2割の中間管理職、生き残れない8割の中間管理職の違いとは何でしょう。

A 受け身でものを考え、事前調整して保険をかけるようなタイプは危ないです。

 あらかじめ答えが存在していて、そこに辿り着くことが求められるタイプの仕事は、今後AIでどんどん置き換えられていきます。そんななか残るのは、何らかのクリエイティビティに関わる仕事です。そもそもなにが問題なのかを発見し、問題設定をするような仕事です。

冨山和彦氏 ©平松市聖/文藝春秋

 もうひとつは、それとはまったく反対で、人間を相手にして人間と関わり合いながらする仕事です。たとえAIがかなり発達しても、個々の人間の極めてデリケートな部分であるハートを掴む能力というのは、たぶん限界があるんです。人間はいい加減というか、非安定的な生き物ですから、その深いところにタッチする仕事は残ります。サービス業でも、一番最後まで残るのはじつは接客系だと思っています。その瞬間、瞬間の相手の顔色を見るというのは、やっぱり人間が得意なんですね。

 渋谷のスクランブル交差点を上手に渡るというのも、AIにとってはハードルが高いです。歩行者みんなが違うルールで横断しているし、しかも渡っている途中でまた気が変わって違う動きをしたりと、極めてアナログで曖昧な行動をとっている。なので、じつはお互いに駆け引きをやりながら渡っているんですね。その瞬間ごとの駆け引きというのは、AIが相当に進化すれば最後はできるかも知れないけれど、莫大なお金がかかる割にはリターンが少ないような気がします。 

 それから、会計士はこれから危ないかも知れません。最近はコンプライアンスが厳しくなったせいもあり、会計士は裁量を働かせるな、という時代になってきています。だからもう会計基準通りに、杓子定規にやってください、という具合になっています。これはむしろ、人間よりもAIのほうが得意な分野です。

©近藤俊哉/文藝春秋

 弁護士は意外と残ります。なぜなら、交渉が要求される仕事なので。交渉というのは、意外と理屈通りにいかないし、ある意味、理不尽さもありますから。じつは法律にはファジーな側面があります。

 税理士も意外と大丈夫です。これはやや言いにくいところなのですが、税務署には曖昧さがあるというか、課税当局側にいろんな意味で裁量権があるからです。そのため、解釈の幅というものが出てきて、ネゴシエーションが必要になるからです。

どんな管理職が生き残れるのか?

 会社のなかでも、AI時代になれば中間管理職の8割は必要なくなるでしょう。これからは、単なるホウレンソウ的な仕事、とくに報告・連絡はもう必要ないです。AIによって自動的にできてしまうので。そのため、相談ごとのところだけ残るでしょう。ということは、相談上手である必要があります。人間的に非常に豊かな人でないと相談相手としては使えません。あるいは本当のリーダーシップ、もしくはクリエイティビティのあるリーダーシップが必要になります。いわゆるソフトサイドのスキルですね。ルールもなにもなくて、どうしてよいか分からないような現場で、新しいルールを作り出して、現場の問題解決ができる。そんな管理職が生き残ります。

冨山和彦氏 ©平松市聖/文藝春秋

 くどいようですけど、ルールベースで正解に辿り着くタイプの仕事はなくなっていくので、今のままだと仕事の6割ぐらいはなくなってしまいますね、特に大きな会社ほどその傾向は強いです。サラリーマン社会では、自分で能動的に動くよりも、上司の正解を探って指示通りに動くほうが安全です。自分で勝手に動いて地雷を踏んでしまうと、えらい勢いで怒られる。その結果、ルールベースの仕事しかできない人間が育ちやすい。受け身でものを考え、事前調整して保険をかけるようなタイプ。そのような中間管理職が、今後は一番危ないのではないか。

 
©近藤俊哉/文藝春秋

 こうならないためには、どうするか。たとえば、今、大企業に勤めている人でも、みずから手をあげて子会社に出向したり、ベンチャーに転職して、マネジメント能力を鍛えることです。ややこしい状況で仕事をせざるをえない状況に自分を追い込み、常に自分で判断するというクセがつけられるからです。50代になるともう修正するのは難しいので、30代、40代から考えていったほうがいいですね。

 AI時代にもかかわらず、スピードもチャレンジもない保守的な会社の既得権益層を打ち破るには、どうすればよいでしょうか。

A 諦めるまで粘り強く。集団の空気が諦めとなった瞬間、鬼畜米英からギブ・ミー・チョコレートに変わります。

 日本の組織システムは、歳を取るとみんな既得権者になります。なぜなら年功制のもと、薄く広く社内に既得権がばら撒かれているからです。そして、これこそが一番改革のしにくい理由なのです。むしろほんの一部の人が富を独占してくれているほうが、じつは革命は起こしやすいんですよ。

 日本の会社のなかで、欧米型の革命モデルで決起しようとすると、たいていの場合、抹殺されます。既得権を持っている人のほうが、結構な人数いるので。しかも彼らは相対的にそれなりの地位にいます。だいたい経営改革をやると、40代ぐらいが中間勢力、50代はほぼ全員守旧派です。

冨山和彦氏 ©平松市聖/文藝春秋

 ですから、あるときには妥協し、あるときにはその間を分断してと、相当にしたたかにやって上手に味方を増やしていかないと、割とあっさり殺されてしまいます。反革命が簡単に起きます。それこそが、ここ20年間ほど、一部の改革的なリーダーの多くが苦しんできた課題です。しかしながら、日立をV字回復させた元社長の川村隆さんをはじめ、その峠を越えてきたリーダーもいらっしゃいます。日本型革命が成就する瞬間の、多くの人々の心理的な心模様というのは、諦めです。ああ、もうしょうがないや、もう時代が変わったんだ、と。集団の空気が諦めとなった瞬間に、結構バタバタバタバタッとシーソーが一方に倒れていく。あっと言う間に、鬼畜米英からギブ・ミー・チョコレートに変わるんですね。だからその時点までは、ある意味では相当粘り強くやっていかないといけません。

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 それから、急にお腹がメチャメチャ痛くなるとか、頭がメチャメチャ痛くなるという瞬間もチャンスです。そうなる前にも、このままのビジネスモデルだとまずいんじゃないか、とじつは社員の多くが内心思っているんですよね。思っているんですが、「俺、既得権益を持ってるしな」と動かない。でも、お腹が痛くなるとシーソーがすうっと動くんですよ、その瞬間だけ。だって、もうこのままだと会社潰れちゃいそうで、みんな仕事がなくなっちゃうというリアリティを感じるので。ここが勝負ですね。こういうのをうまく利用しないで、何もないところで改革だ、グローバル型だと叫ぶと、たいてい5年以内に殺されます。

 
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