中国全土で砂漠・荒地が農地に変わる理由
2019年07月08日
中国全土で、これまで耕作地ではなかった条件不利地に温室などの園芸施設を建設する動きが活発化している。もともと肥沃な農業地帯だった長江周辺が、工場地帯に様変わりし、必要だと見積もる農地面積の維持が困難になったためだ。
加えて、2011~20年までの10年間で、商品として流通する野菜の消費人口が2億人増えると予測され、施設園芸の拡大が必須だからだ。新疆ウイグル自治区の乾燥地帯に、温室の立ち並ぶ光景が出現している。
新疆ウイグル自治区の中部に位置するトルファンは、ブドウの産地として有名だ。乾燥地帯ながら「カレーズ」と呼ばれる地下水路を使った農業が伝統的に行われてきた。市街を抜け農耕地帯に出ると、ブドウ畑と日干しれんがで作った干しブドウを作る乾燥室ばかりが並ぶ。
そんな景色の中を車で走っていくと、突如、軒の高い連棟ハウスが現れる。これは、2012年に330ヘクタールの農地に建設された「トルファン自治区農業科技園区」の一角だ。
ハウスは育苗に使うもので、高さ5メートル、広さは5000平方メートル。ガラス温室ではなく、フィルムが張られ、温度調整に天窓と換気扇、石炭を使うボイラーがある。温度や日射量などを自動で調節する「複合環境制御装置」を備える。こうした装置は、日本でも一部の進んだ経営体しか導入していない。
最新式の温室に比べると、温室内の骨材が多くて日光を遮っていたり、加温の燃料が石炭だったりと見劣りする部分はある。それでも、周囲に広がる粗放な農業とは全く異なる光景に、現地政府の本気度を感じた。
こうしたハイスペックな温室の導入は、トルファン自治区のみが進めているわけではない。背景には、食糧増産に「非耕地(非農耕地)」を使うという国家戦略がある。農耕地帯というと、首都圏の北京や天津に食料を供給する山東省や、「江浙熟すれば天下足る」と言われたように稲作の盛んな華南地域が挙げられる。こうしたもともと食料生産の盛んな地域以外でも農地面積を確保しようと、政府が非耕地の開発に乗り出したのだ。
4億ヘクタールとされる非耕地の6割は、新疆の位置する中国西北部にある。砂漠や草原、岩がむき出しになった地形の多い新疆は、露地栽培においては条件不利も甚だしい。しかし、そんな土地でも温室を建て、効率的な灌漑(かんがい)をすれば農業ができるようになる。そのため、新疆が新たな農耕地帯として注目され、政府の後押しを受けて温室の建設が進む。
中国には15年時点で3.08億ムー(2053万ヘクタール)の農地があり、うち400万ヘクタール以上が施設園芸で、その割合は今後一層増える見込みだ。施設園芸ならば乾燥地帯のような非耕地でも展開ができるため、政府は非耕地に適した温室の開発を6年ほど前から始めている。
施設園芸の伸長は、野菜消費の増加を見越してのもの。2011年に「全国野菜産業発展計画(2011-2020)」が発表された。今後の人口増加と都市への人口流入、生活水準の向上を考慮すると、商品として流通する野菜の消費量が増えると予測。これによると、施設栽培の野菜は2020年に42万ヘクタールの増産が必要だ。日本の耕地面積は442万ヘクタールだから、そのおよそ10分の1に相当する。
ところで、中国がすでに施設園芸大国であることは、あまり知られていない。施設園芸の面積が世界一というのは、そもそも国土が広いので驚くには値しないかもしれない。
しかし、国民1人当たりの面積でみても、イスラエルに次ぐ2位と高いのだ。軒の高い温室はごくわずかで、大半を占めるのがいわゆるビニールハウスや、中国ならではの「日光温室」と呼ばれる簡易な温室だ。
これは、かまぼこを縦半分に割ったような形をしている。北側に土塀を築き、南側に半アーチ形の骨材を設置してフィルムを張る。日光を最大限取り込んで加温をし、日がかげると屋根に載っている布団のような厚手の布を引きおろし、保温する。山東省に特に多く、中国の首都圏や、日本に供給する野菜の栽培に使われる。
新疆でもこのタイプの温室を増やしたいと考えている。しかし、砂地が多く、黄土地帯のように粘土を版築(板枠の中に土を入れて突き固めること)で固めて土塀を作ることができない。現地にある素材で保温効果の高い日光温室を作れるよう、新疆農業大学や陝西省にある西北農林科技大学の学者らが研究を進めている。
全国野菜産業発展計画(2011-2020)の定める増産の屋台骨を支えるのは、オランダ式の温室ではなく、ビニールハウスや日光温室といった低コストの施設だ。北京や上海でオランダに学んだ最新鋭の施設を増やす一方で、費用対効果の高いローテクの温室を広げて量を確保する。
中国農業のニュースというと、オランダ式のガラス温室の導入や人工光の植物工場に目が行きがちだ。だがそうした華のある施設の拡大と同時に、ローテクの温室の普及と改良が国の肝いりで進められている。


