「IPO割引」の慣行は「独禁法違反の恐れ」 公取委、公平な競争促す

カテゴリー/ フリースペース |投稿者/ ビレンワークアップ
2022年01月29日

公正取引委員会は28日、新規株式公開(IPO)時の価格決定を巡る報告書をまとめ、証券会社が主導する現行の値決めの慣行は独占禁止法違反が発生する恐れがあるとの見解を示した。証券会社が価格を低く設定することで、上場する企業の調達資金や創業者らが得られる利益が少なくなることを問題視した。 【写真】晴れ着姿で「打ーちまひょ」 証券会社の女性社員ら  新規上場を目指す企業は、証券取引所の承認を経て、「主幹事」となった証券会社が主導する形で上場手続きを進めていく。説明会を開くなど投資家の需要をはかりながら、上場前に、証券会社の顧客である一部の投資家に販売する「公開価格」を決定。実際に上場されると幅広い投資家の間で取引が始まり、初めて付いた株価が「初値」と呼ばれる。  問題は、国内の新規上場株の初値は、公開価格の平均1・5倍もの高値が付くとされる点だ。初値が公開価格を上回れば、証券会社の顧客である投資家は含み益を得られるため、人気が高く証券会社にとっては個人投資家を呼び込む手段にもなっている。  その半面、初値での値上がりを演出するため、あまりに公開価格が低く設定されれば、企業が上場時に調達できる資金や創業者の得る利益が少なくなり、新興企業の成長にはマイナスになりかねない。  こうした現状に独禁法上の問題がないか、公取委は最近、国内の証券取引所に上場した企業97社と主幹事を務めた証券会社22社を対象に調査。その結果、企業からはさまざまな不満が寄せられた。  その一つが、公開価格を決定するにあたり、あらかじめ価格を低くしておく「IPO割引」という慣行だ。実際、公取委の調査に答えた証券会社の63・6%が「2割以上3割未満」の割引を行ったと回答した。  金融市場には不確実性があることから、証券会社にとっては「当然」の手法だが、ある企業は「新型コロナウイルス感染症の拡大で(市場が不安定化しているため)、4割(低めの設定が)必要だと説明を受けた」と指摘。  その他にも「直接の動きが見えたわけではない」としながらも「公開価格は(証券会社内の)小売り営業の(売りやすいように引き下げろという)圧力が働いた結果の数字だと考えている」「算定根拠の説明を受けられず、交渉についても取り付く島もなかった」と証券会社に対する数々の不満があがった。  公取委幹部は「(主幹事の証券会社が)個人投資家に売りやすいように公開価格を下げる傾向があると言われている」と話す。報告書は、主幹事証券会社が企業側に十分な説明なく一方的に価格を低く設定することは、独占禁止法が禁ずる「優越的地位の乱用」にあたる恐れがあるとの見解を示した。  また、新規上場企業は主幹事証券会社より弱い立場になりやすく、「幹事社を変更したかった」と回答した企業のうち28・6%は「変更すれば上場予定日が1年ほど延びる」と証券会社から言われるなどして断念していた。公取委幹部は「一般的には、上場手続きのプロセスが進むほど証券会社の優越的な地位が高まっていくのではないか」と分析する。  こうしたアンバランスな状態を緩和するため、公取委は証券会社に対し、企業が主幹事を変更したい場合に配慮することや、公開価格などについて、企業が他の証券会社から意見を聞くことを阻害しないよう促した。  これに対し、証券業界では公取委の指摘に疑問の声が相次いだ。人気の高い新規上場株は証券会社の想定を超えて高い初値が付くことがあり、投資家によるマネーゲームが公開価格と初値との隔たりを招いているという認識からだ。ある大手証券幹部は「現状は『プラチナチケット争奪戦』に近い。初値が上がっても、結局、半年後、1年後には公開価格と同じ程度に戻り、下回ることが多い印象がある」と話す。とはいえ、証券会社は新規上場株の人気を盛り上げることで、株が売れ残って自社が含み損を抱えるリスクを抑えているという状況もある。  日本証券業協会は既に、公開価格と初値の隔たりを小さくする方策を検討中だ。公開価格を決めてから上場するまでの期間を短縮して「IPO割引」の幅を縮小したり、初値が付くまでは投資家が株の購入価格を指定しない「成り行き注文」を禁止して初値の急騰を抑制したりすることを想定している。  2021年の国内新規上場企業は136社と06年以来の高水準だったが、新規上場時の資金調達額は米国の10分の1程度にとどまる。岸田文雄政権は日本経済にとって急務である新興企業の成長に向け、こうした状況が足かせになっているとして、公取委の報告書を改善のてこにしたい考えだ。  しかし、どれほどの効果が期待できるのだろうか。ニッセイ基礎研究所の中村洋介主任研究員は「そもそも上場に至る企業をいかに増やすかが肝心だ。公開価格と初値の差はあくまで課題の一つでしかない。起業家をどう増やすかや海外から投資をどう呼び込むか、規制緩和など課題が多く、他の部分でも力を入れないといけない。新規上場のプロセスだけを変えてすべてが良くなるわけではない」と指摘する。  一方、証券業務コンサルティング業を営む資本市場研究所きずなの渡辺雅之氏は「公開価格を安くして投資家に売るよりも、証券会社には買ってくれる投資家を掘り起こす努力が必要ではないか」と語った。

 
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