話すことに特化で、2年でペラペラに

km(国際自動車)グループのタクシー会社、弥生交通でタクシー乗務員を務める中山哲成さんは、2018年10月に東京タクシーセンターが開催した、英語の接客を競い合う「第5回タクシー運転者『英語おもてなしコンテスト』」の最優秀賞受賞者だ。コンテストの模様はイギリスのビジネス誌「The Economist」に取材され、YouTubeでも視聴可能だ。

km(国際自動車)グループ 弥生交通 タクシー乗務員 乗務歴5年 中山哲成氏

そこで、中山さんは英語でインタビューに応じている。発音は美しく、受け答えも流暢。どれほどの海外経験があるかと思うところだが、「留学経験どころか、以前は英語をまったく話せませんでした」という。

タクシー乗務員への転職をきっかけに独学で英語の勉強を始め、今や外国人乗客の対応はお手のもの。プロの通訳者や有名予備校の講師らが参加する国内最高峰の英語スピーキングコンテスト「ICEE 2018」では、決勝トーナメント進出を果たすほどだ。

もともとミュージシャンや小説家を志望していたという中山さんだが、30歳の14年に、タクシー乗務員に転職した。「前の年に東京オリンピックの開催が決まったので、『今から英語の勉強を始めたら、オリンピックがある20年までには、話せるようになるんじゃないか。そうすれば、外国から来たお客様をガイドできたりして役立つのでは』と考えました」と話す。

アメリカの音楽や映画は好きだったが、「高校卒業以来、一切勉強というものをしていなかった」(中山さん)ので、どうやって勉強していいのかもわからない。とりあえず大型書店で英語学習に関する書籍をかたっぱしから買い込んだ。使わないで売ってしまったものも多いが、自分に合うものは何かと探し続け、いくつか自分にぴったりのものに出合ったという。

最初に読み込んだ文法書が、阿川イチロヲさんの『英文法のトリセツ』だ。「例えば最初のほうに『英語は1つの文の中に動詞が1つしかない』といったことが説明されていました。英語のしくみが解説されていて、僕には衝撃的にわかりやすかった」。次に出合ったのが、大西泰斗さんの『一億人の英文法』。中山さんは「一番お薦めです。英語の基礎がある人は、これ一冊でもいいくらい」と話す。

「英語は僕にとって音楽なんです」

これらの本で英語の文法を一通り勉強した後、中山さんが取り組んだのが英語で書かれた文法解説書、レイモンド・マーフィーさんの『English Grammar in Use』だ。「いきなりこの本を読んでも難しくて理解できませんが、最初に日本語で文法を勉強してからだと全然違います。例えば日本語で完了形の説明をされても、正直全然理解できませんでしたが、英語で学びなおしたらすとんと理解できました。こういう『理解できた』瞬間があると、文法の勉強も楽しくなるし、頭に入ります」と中山さんは説く。

「大学受験や資格試験合格のためではないので、ひっかけ問題に答えられるようになる必要はない。話せるようになればいいのですから、英文法はここまでやれば十分」

次に中山さんが力を入れたのが発音だ。「僕がもし英語の先生になるんだったら、まずこれを買うよう薦めます」というのが、松澤喜好さんの『英語耳』。「もともとミュージシャン志望だったこともあって、英語は僕にとって音楽なんです。かっこよくしゃべれるようになりたい。そうすると発音はとても重要です。アルファベットを覚えたら、まずこの本で発音のしくみと発音記号をしっかり頭に入れる。これを最初にやらないと、結局後で苦労することになると思います」

同書にはCDがついており、ネーティブの発音を聞くことができる。中山さんはこれを聞きながら本に書いてある発音を確認して学んだ。また、お手本として入っていた「アメージング・グレース」などの歌を、CDのまねをしながら歌い、録音して再生して聞いてみるという練習も繰り返しやったという。

「あまり意味がわかっていなくても、『おお! こうやって発音するとネーティブみたいだ!』となって楽しい。これを学習の初期にしっかりやったのが、後のスピーキング力につながりました」と振り返る。

ここまで聞くと、かなり順調に、ストイックに英語を学んできたように聞こえるが、実は「最初の1年は、勉強しては『こんなの頭に入るわけがない。英語なんて話せるようになるわけがない』と挫折して、またしばらくして勉強を始めて……というのを繰り返していました」と語る。文法を学び、単語を暗記しても、一から英語で文章を組み立てるのは、かなり高度な技術が必要。たまに外国人客を乗せても、全然英語で話せずにめげてしまっていたという。

そんなある日、テレビでニュースキャスターが外国人をインタビューするときに「Let me introduce myself(私の自己紹介をさせてくださいますか)」と話し始めたのを聞いた。「『これは使える』と思って丸暗記し、次の乗務で外国人のお客様を乗せたときに話したら通じてほめられたんです。それで、『自分で文章を組み立てるんじゃなくて、使えそうなフレーズを丸暗記すればいいんだ』と気が付いた」