危うい「資産所得倍増プラン」 円安加速、国債安定消化にリスク【けいざい百景】
2022年07月18日
岸田文雄首相が「資産所得倍増プラン」を打ち出している。「貯蓄から投資」を促し、経済を活性化するのが狙いだ。ただ、日本経済と企業の成長性が乏しいままでは個人マネーが米国株などに流出し、円安を一段と加速しかねない。また、家計の貯蓄が支えてきた日本国債の安定消化の構造を突き崩すリスクもはらむ。(時事通信経済部 編集委員・宮木建一郎) 【図解】家計の金融資産構成割合 ◇市場と関係修復狙う 「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」。首相は5月上旬、英ロンドンの金融街シティーで講演し、看板施策「新しい資本主義」の目玉として、倍増プランを突如打ち出した。 日銀によると、2021年3月末で日本の個人金融資産約2000兆円のうち、54%が現金・預金で滞留。株式は10%にとどまり、米国(38%)との開きは大きい。この巨額貯蓄が株式などの投資に回り、投資先企業が成長すれば、家計には株の値上がり益や配当が還元される。こうした好循環を目指すのが倍増プランで、6月上旬に閣議決定した「新しい資本主義」実行計画は、年末までに具体策をまとめると明記した。 検討対象に挙がるのは、「一般NISA」で年間120万円、「つみたてNISA」で同40万円の非課税投資枠の大幅拡充だ。65歳未満となっている個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の加入可能年齢も引き上げる方針だ。 昨年秋に発足した岸田政権は、競争原理を重視する新自由主義が格差拡大を招いたとの問題意識に立ち、分厚い「中間層」の復活を目指す分配戦略を重視。分配の財源として富裕層への増税となる金融所得課税の強化を掲げたため、「反市場主義者」と警戒されて「岸田ショック」と呼ばれる株価下落を招いた経緯がある。 政権は倍増プランによって、悪化した市場との関係修復も狙う。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「株式市場を敵に回す姿勢から、市場を味方につける戦略に一気に転換した」と評価する。 ◇キャピタルフライトの恐れも ただ、倍増プランが現金・預金として眠る個人金融資産を呼び起こしたとしても、その投資先が日本株などの円建て資産に向かう保証はない。日本経済は「失われた30年」と呼ばれる長期停滞にあえぎ、低成長が当たり前になっている。企業の新陳代謝も進まずに、米国のアップルやアマゾン・ドット・コムのような巨大IT企業も生み出せていない。 若年層を中心に米国株投資への関心は広がっており、ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは「日本経済や企業に元気がないと、個人マネーは海外に向かう」と危惧する。規制改革や構造改革を進め、企業の成長力を高めない限り、倍増プランは個人金融資産が海外に流出する「キャピタルフライト(資本逃避)」につながる恐れがある。 倍増プランには、みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストも「円安の起爆剤」となる危険性を指摘する。家計が現金・預金を取り崩し、外貨建て資産に投資すれば、円を売ってドルなどを買う動きが広がり、円安の勢いは一段と加速する。資源など輸入価格の高騰を助長し、国民生活に重くのしかかることになる。 また、国の借金である国債残高が約1000兆円に上り、先進国で最悪水準にある日本の財政を支えているのは、家計の巨額貯蓄だ。銀行は家計から預かった資金を運用するために国債を購入している。さらに、日銀の当座預金にも回って大量の国債購入に充てられている。家計の貯蓄過剰を資金不足の政府が借りる形で、国債が安定消化されている。 しかし、「貯蓄から投資」が進むと、政府は新たな国債の買い手を見つけてくる必要がある。現在のような低い金利では、海外投資家は購入しないため、より高い金利が求められ、利払い費の増加で財政悪化が一段と進みかねない。唐鎌氏は「国債の安定的消化の構造を、わざわざ自ら揺らしにいく危うさがある」として、倍増プランがもたらすリスクに警鐘を鳴らしている。
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