3万円で2時間切り”ナイキ新厚底”の威力

カテゴリー/ フリースペース |投稿者/ ビレンワークアップ
2019年05月13日

4月28日に行われたロンドンマラソンで、ナイキの新型シューズ「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いた選手が1〜5位を独占した。スポーツライターの酒井政人氏は「新型はソールがさらに厚くなった。価格も1620円上がったが、トップランナーだけでなく市民ランナーの“厚底率”も、さらに上がるのではないか」と指摘する——。

■ナイキの「新・厚底シューズ」が1〜5位を独占

ロンドンマラソン2019で優勝したエリウド・キプチョゲ選手のゴールシーン(写真=ナイキ提供)

現在の男子マラソン世界記録は、2018年9月のベルリンでエリウド・キプチョゲ(ケニア)が樹立した2時間1分39秒だ。それまでの世界記録(2時間2分57秒/14年)を一気に1分18秒も上回る驚異的な数字である。

 

しかし、筆者はまだまだ短縮できると確信している。その最大の理由は“世界最速シューズ”がさらに進化を遂げたからだ。

 

2017年に「ズームヴェイパーフライ4%」というナイキの厚底シューズが登場して、世界のマラソンは“ナイキ色”に染まりつつある。2017年と2018年のワールドマラソンメジャーズでは、トップ3の男女合計72人のうち、実に42人がナイキの厚底シューズを着用。日本記録を塗り替えた設楽悠太(Honda)と大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)も同シューズの愛用者だ。

 

ナイキの厚底シューズは何がスゴいのか。

 

ここで改めて考察したい。まず、挙げられるのはこれまでの常識を一変させたことだろう。従来のレース用シューズは「軽量化」に重点が置かれていたため、ソールは薄底が中心だった。しかし、トップランナーから、「クッショニングがしっかり装備されているシューズがほしい」という要請を受けて、ナイキは新たな視点でシューズを開発。「クッション性」と「速さ」を兼ね備えた“非常識”ともいえる厚底シューズを世に送り出した。

 

■好記録続出、前モデルと何がどう違うのか?

上位選手すべてがナイキの新・厚底シューズを履いていた!(写真=ナイキ提供)

そして、4月28日に行われたロンドンマラソンでナイキは新・厚底シューズを投入。早くも世界に衝撃を与えている。

 

この大会で、男子はキプチョゲが世界歴代2位のパフォーマンスとなる2時間2分37秒で優勝。ネット・ゲレメウ(エチオピア)が2時間2分55秒、ムレ・ワシフン(エチオピア)が2時間3分16秒をマークするなど、好タイムでトップ5を独占したのは、すべてナイキの新・厚底シューズ着用者だった。

 

彼らが履いていたグリーン色のシューズは、4月24日に発表された「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」というモデル。以前、キプチョゲが世界記録を樹立したときに履いていた「ズーム ヴェイパーフライ4% フライニット」は、前モデルからアッパー部分を伸縮性のあるフライニットという布地に変えただけだったが、今回はかなりアップデートした。

 

優勝したキプチョゲは自身が持つコースレコード(2時間3分5秒)を28秒も短縮。2位のゲレメウは1分5秒、3位のワシフンは1分21秒も自己ベストを更新している。これは新シューズの威力といえるかもしれない。

 

■なぜ、前足部を4ミリ、ヒールを1ミリ厚くしたのか

 

筆者は今回、ロンドンで新シューズの発表会に出席した。

 

同シューズの開発・マーケティングを担当しているブレット・ホルツ氏(ナイキ ランニング フットウェア ヴァイス・プレジデント)に直接話を聞く機会を得たが、細かい部分までしっかり計算されていることに驚かされた。

ナイキ ランニング フットウェア ヴァイス・プレジデントのブレット・ホルツ氏(写真=ナイキ提供)

最大の注目ポイントは、シューズの「エンジン」ともいうべきミッドソールがさらに厚くなったことだろう。ミッドソールはスプーン状の「カーボンファイバープレート」を、航空宇宙産業で用いられる軽くて柔らかい素材で作られた「ズームXフォーム」で挟む3層構造。ランナーが足で踏み込み、カーボンファイバープレートを屈曲させることで、元の形状へ戻ろうとするときに推進力が生まれる。

 

ズームXフォームも最大85%という高いエネルギーリターンを誇るが、新シューズではフロント部分を4ミリ、ヒール部分を1ミリ厚くした。ミッドソール全体でズームXフォームのボリュームを15%増量したという。

 

「ヒール(かかと)よりフォアフット部分(前足部)にフォームを増しました。一流のアスリートの着地は、大半がフォアフットかミッドフット。ヒールストライカーでも、地面を蹴るのは前足部です。フォアフット部分を厚くすることで、エネルギーリターンもアップしました」(ホルツ氏、以下同)

(写真=ナイキ提供)

■シューズの全パーツに先端テクノロジーを搭載している

 

そしてオフセット(ヒール部分とフォアフット部分の厚さの差)は11ミリから8ミリに。従来モデルと比べて、感覚的にはヒール部分が3mm下がったことになる。

 

「オフセットを8ミリに抑えたことで、安定感が高まり、着地後、地面を素早く蹴り出せるようになりました。安定性を高めるために、ミッドフットあたりのサイド部分を少し広げて、逆にヒール部分は少し狭くしています」

 

なお、カーボンファイバープレートを挟む2層のズームXフォームは基本、熱で溶かして接着している。接着剤を極力使わないことで、余計な厚みが出ず、機能性を妨げない。環境にも配慮しているのだ。

 

フォームが15%増量したことでソール部分は重くなったが、アッパー部分を軽量化。シューズ全体の重さは変わらない。それだけでなく、新素材(ヴェイパーウィーブ)を採用したことで、通気性が格段に良くなったという。

 

「今回初めて使われたヴェイパーウィーブは、ナイロンとTPUプラスチック(熱可塑性ウレタン)で特別に作られたものです。水分の吸収量が10%以下なので、汗や雨などの水分吸収を抑えることができます。またアッパーはプラスチックTPUで網をかけることによって、3D形状を作り、足をホールディングします」

 

■「ランニング効率を15%まで引き上げられる」

 

アッパーは履いているソックスが透けて見えるほど薄い。吸水性がないので、雨のレースでもシューズが重くならないという。他にも足の圧迫を防ぐため、シューレースは中心からずらした位置に配置。どんな天候、どんな路面でも対応できるように、トラクションパターン(アウトソールの補強部分)のデザインも一新された。

 

 
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