大人が感動、よみうりランドが遊園地を超えていた

カテゴリー/ フリースペース |投稿者/ ビレンワークアップ
2019年11月03日

11月3日(日)6時0分 JBpress

よみうりランドのイルミネーション(筆者撮影)

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(小谷 隆:コラムニスト)

 日が落ちると肌寒さをおぼえる10月末のある日、夕闇の降りてきた遊園地はおびただしい数の光の粒に彩られていた。その数、650万球。赤はルビー、青はサファイアなど、一つひとつの光は宝石色を使っているという。幻想的などという手垢に塗れた描写では物書きの端くれとして恥ずかしい限りなのだけれど、他にいい言葉が思いつかない。じっさいこういうものを幻想的というのだろう。

 ディズニーリゾートを除けば遊園地然とした遊園地に足を踏み入れるのは何年ぶりどころか何十年ぶりだったけれど、久しぶりに目にしたそれは遠い昔の記憶にある古いステレオタイプの遊園地のイメージとは大きくかけ離れたものだった。

 確かに観覧車もあればジェットコースターもあるし、メリーゴーラウンドもある。しかし、今どきの「遊園地」は幼い頃に見た子供の楽園とはほど遠い、明らかにおとなのために作られたアミューズメント施設なのだ。

ラスベガスのような大型のショー

 東京都稲城市と神奈川県川崎市多摩区にまたがる「よみうりランド」(東京都・矢野口)では、10月24日から来年(2020年)5月のゴールデンウィークまで、夜間営業を一面イルミネーションで彩る。

 初日に開かれた点灯式イベントでは、メディアや関係者などの招待客のほか、平日の夜にもかかわらず一般客も含めて3000人が入場した。

 1500人の観衆が見守る中、ステージを賑わすタレントたちのカウントダウンで点灯されたのは、今年のライトアップの目玉である高さ25メートルの光の山「オリンポス・サミット」。

 ライトアップを始めて10年目にあたる今シーズンは、各エリアでギリシアのオリンポスに集う12の神の宮廷をデザインコンセプトに、世界的な照明デザイナーであり六本木ヒルズ森タワー、東京タワーなどのライトアップも手がける石井幹子(もとこ)氏がプロデュースした。噴水ショーでもレーザーと炎の演出を加え、幅60メートル、高さ15メートル、噴水242本を使った、ラスベガスばりの大型のショーを展開する。

「遊園地はプールシーズンの夏休みがピークで、寒くなるにつれて客が減り、冬は閑散期だったんです」と明かすのはよみうりランド遊園地事業担当取締役の斎藤孝光氏。「しかし、10年前にイルミネーションを始めてから、今では秋から冬がハイシーズンになりました。客層が子どもからおとな、特に恋人や夫婦にシフトし、少子高齢化への対応策としても当たりましたね」

 イルミネーションによるライトアップ営業の入園者数は2010年には11万人ほどだったのが、営業日数も段階的に増やすなどして2018年には58万人を記録するまでになった。

 こうなってくるともはや「遊園地」などと呼ぶのはそぐわないのかもしれない。

「一般に、ディズニーランドやUSJ、サンリオピューロランドのようにコンセプトが明確なものはテーマパーク、ジェットコースターやメリーゴーラウンド、観覧車などを中心とした伝統的な施設は『遊園地』と呼んでいるのですが、よみうりランドの場合、夏場はプール、秋から冬にかけてはジュエルミネーションが集客の軸になっています。また、来年3月には植物園もオープンしますし、水族館も整備したいと考えています。そうなるといよいよ『遊園地』という定義には収まらなくなるので、『スーパー遊園地』構想と呼んでいます」(斎藤氏)

「スーパー」がついてもやはり遊園地は遊園地。しかし、今やおとな向けの遊園地である。

おとなの乗り物に子供も乗れる

 おとな向けになったとはいえ、子供客を度外視しているということではない。たとえばよみうりランドでも幼児向けの施設は充実しているし、アンパンマンや仮面ライダーのショーも行われている。ただ、メインのアトラクションについて言えば、あえておとな向けにデザインし、子供たちに対しては「おとなと同じことができる」という楽しみを提供しているのだ。

「子供向け」にしないことでむしろ子供ウケがよくなる事例は他にもある。幼児向け雑誌を見てもそんな傾向がはっきりと表れている。小学館の4〜6歳向け雑誌『幼稚園』の最近の付録にはおとなもびっくりだ。

 たとえば2019年9月の付録は「セブン銀行のATM」。筐体を紙で組み上げるあたりは伝統的な雑誌付録と変わらないのだけれど、ディテールは本物そっくり。しかも現代ならではの電子部品が活躍していて、お札を吸い込んだり出したりするギミックが楽しめる。おとなのやっていることを真似したいという子供の願望を満たしているのだ。今や『幼稚園』は書店でもすぐに売り切れになってしまうという。発行部数がこの10年で20万部から7万部ほどへ激減する中、生き残りをかけた必死の抵抗が見て取れる。

(参考動画)「【公式】幼稚園2019年9月号のふろくは『セブン銀行ATM』」(YouTube)

 遊園地とて同じこと。今どきはほとんどのアトラクションがおとな向けにデザインされている一方、多くのアトラクションではちゃっかり小学生の身長でも乗れるように設計してある。いい年をしてアンパンマンやドキンちゃんのコースターに跨るのはさすがに躊躇するけれど、これならおとな同士でも胸を張って乗れるし、子供は子供でおとなの乗り物に乗るというワクワク感を楽しめる。

 少子化が進み、かつてテレビのゴールデン帯を賑わしていた戦隊モノやアニメも次第に日曜の早朝などに追いやられていった。社会は確実におとな向けへと仕様変更されつつある。とはいえ子供たちは子供たちで、あえて「子供むけ」に配慮しなくても自分たちなりの目線で勝手に「おとな」を楽しんでいる。

 そんな時代が子供たちにとって幸せなのかどうかはわからない。けれど、幼い頃は「子供向け」のまがい物しか与えられてこなかった筆者としては、早くから「本物」に触れることができる今の子供たちを少し羨ましく思う。

 
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