「このままでは共倒れ」大阪のタクシー大半「55割」廃止 値下げ競争に終止符打てるか

カテゴリー/ フリースペース |投稿者/ ビレンワークアップ
2023年06月01日

5千円を超えた分のタクシー運賃を半額にする遠距離割引「55割(ゴーゴー割)」が31日、在阪タクシー会社の大半で廃止された。平成14年から20年以上にわたり、終電後に帰宅する遠距離客に重宝されてきたが、景気の低迷による利用客の減少などで「このまま続ければ業界がもたない」との悲鳴が上がっていた。ただ、一部には55割を継続するタクシーもあり、値下げ競争が続く可能性もある。 【比較してみる】これまでの「55割」と「91割」の料金の違いは? ■規制緩和で苛烈競争 国土交通省近畿運輸局によると、55割は平成14年6月、大阪府内でスタート。3年後には、府内を走る9割のタクシーが導入した。 背景にあったのは当時の小泉純一郎政権による規制緩和政策だ。自由競争を推奨し、地域ごとに国が数を管理していたタクシー会社の新規参入が盛んになった。14年末で161社だった府内のタクシー会社はピーク時の20年、231社まで増加。パイの奪い合いが始まり、苛烈な価格競争につながった。 「55割でなければ、客がつかまらなかった」。あるタクシー会社の幹部はこう振り返る。 ■コロナ禍、燃料高騰が打撃 だが、2008年のリーマン・ショック以降の景気低迷により、55割は「過度な割引」(大阪府のタクシー会社幹部)として事業者の経営に打撃を与えるようになる。そこに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルス禍だ。 近畿運輸局によると令和2年以降、府内のタクシー会社6社が倒産。同3月からの1年間では、約1400人の運転手が廃業・引退した。さらにロシアのウクライナ侵攻を受け、燃料費は高騰。2025年大阪・関西万博を見据え、キャッシュレス決済など車両の設備投資にも負担がかかることから、大阪府内のタクシー事業所は足並みをそろえる形で55割廃止を検討するようになった。 初乗り550円が売りのタクシー会社「ワンコインドーム」(大阪市西区)の町野革(かく)会長は、「十数年前から55割は大きな負担だった。このまま続ければ業界全体が共倒れになると思っていた」と打ち明ける。 ■料金値上げとともに一部は「91割」へ 近畿運輸局によると大阪府内では5月31日からタクシーの運賃が改定され、初乗り運賃は「1・7キロで最大680円」から「1・3キロで最大600円」となり、平均12・6%の値上げとなる。 この運賃改定のタイミングに合わせ、これまで55割を導入していた法人タクシーの165社のうち、31日付で大半の157社が廃止し、一部が9千円超で1割引きの「91割」に移行することになった。 タクシー利用者からは55割廃止を惜しむ声も聞こえる。「わざわざ55割のタクシーを探して乗っていた。ずいぶん助けられたし、なくなったら終電までに帰ることになりそう」。神戸市西区の男性会社員(54)は残念がる。 一方、55割を継続する事業者もある。「戎交通」(大阪府東大阪市)は5千円前後の料金客が多いため、55割が収益に与える影響は少ないと判断。しばらくは静観する構えだ。 長距離客を乗せることが多い個人タクシー運転手の男性(72)は「客は安い方へ流れる。やめるなら全体でやらないと」と話し、自身は55割を続けるという。 あるタクシー運転手は「大半の企業や運転手は55割がなくなるのを歓迎するだろう。ただ、長距離の客を狙う運転手は55割を続ける会社に移籍するのでは。すみ分けがこれから進んでいくかもしれない」。別の運転手は「55割を続ける会社にどれだけ客が流れるか注視したい」と話した。

 
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