侵攻から100日、プーチン氏が頼みにする世界の無関心
2022年06月05日
時計の針を今年の2月23日まで戻そう。ロシアがウクライナへの全面侵攻に踏み切る前日だ。そうすると次のように推測したくなる人もいるかもしれない。ウクライナのゼレンスキー大統領がその地位にある日も、そう長くはないと。 【映像】ロシア軍ヘリを撃墜、ウクライナが動画公開 結局のところ、ロシアの軍事費はウクライナのざっと10倍。陸上部隊では2倍の優位性を誇っていた。核保有国であり、ウクライナの10倍の航空機、5倍の装甲戦闘車両を保持していた。 侵攻のわずか数日前には、見るからに怒った表情のプーチン・ロシア大統領がテレビに登場し、歴史にまつわるとりとめのない独白を行った。その内容から、同氏が望んでいるのはウクライナ政府の体制変更以外の何物でもないことが明らかになった。 プーチン氏はゼレンスキー氏が首都から脱出すると見込んでいたのだろう。ちょうど米国の後ろ盾を受けたアフガニスタンの大統領が、わずか数カ月前に首都カブールを去ったように。さらに西側諸国の怒りもいずれ収まるとみていたと思われる。たとえ一時の痛手を、新たな制裁措置から被るとしても。 あれから100日が経過し、プーチン氏がキーウ(キエフ)での勝利のパレードのために用意していたかもしれない計画は、ことごとく無期限保留となった。ウクライナ人の士気は崩れず、ウクライナ軍は米国と同盟国から供与された近代的な対戦車兵器で武装。ロシア軍の機甲部隊を徹底的に破壊した。ウクライナの放ったミサイルで、ロシア黒海艦隊の誇りだった誘導ミサイル巡洋艦「モスクワ」は沈没した。さらにウクライナ軍の航空機は、予想に反して空での戦いを続けている。 3月下旬、ロシア軍は損耗した部隊をキーウ周辺から退却させ始め、戦略の焦点を東部ドンバス地方の攻略に変更すると主張した。侵攻から3カ月、ロシアはもはや短期間での勝利をウクライナで収めることを目指してはいないようだ。それを達成できそうにもない。 とはいえロシアは現在、ウクライナ領内で三日月型を形成する地域を支配下に置く。第2の都市ハルキウの周辺から始まり、分離主義勢力が押さえるドネツク、ルハンスクを抜けて西へ進み、ヘルソンへと達する地域だ。それはちょうどクリミア半島(2014年にロシアが併合)とドンバス地方とをつなぐ回廊を形成する格好になる。 ロシアによる現在の作戦の主目標はドンバス地方であり、現地では過酷な消耗戦が繰り広げられている。最近の戦闘の中心地は産業都市セベロドネツクの周辺で、ウクライナ軍はここにルハンスク州内最後の拠点を保持している。 ウクライナ軍は既にセベロドネツクの大半をロシア軍に奪われた。同市が陥落すれば象徴的な敗北になるものの、軍事専門家らは現地のウクライナ軍を敗北が濃厚な長期の包囲から救うものになるとの見方を示す。 米シンクタンクの戦争研究所は最近の分析で、ウクライナ政府がセベロドネツクにもっと多くの予備役や資源を投入できたものの、それをしなかったことが批判を招いていると言及しつつ、「セベロドネツクを救う目的でさらなる資源の投入をしない決断、そこから撤退するという決断は、痛みを伴うとしても戦略的には健全だ。ウクライナは限られた資源を節約して、重要地域の奪還に集中する必要がある。戦争の結果や戦争再開の条件を左右しない土地の防衛に集中すべきではない」との見解を示した。 ウクライナ国防省の報道官によると、ロシア軍はセベロドネツクに攻勢をかけつつ、ドネツク、ルハンスク両州でウクライナ軍の包囲を試みている。同時に部隊を再編し、スラビャンスク方面への攻撃にも着手しているという。スラビャンスクは戦略都市で、次の重要な戦闘の中心を形成する可能性がある。 こうしたウクライナ東部の戦闘はキーウ周辺での密集した都市環境と異なり、もっと開けた地形での戦いとなっている。従って、ウクライナ側はより強力な兵器、特に遠距離から標的を狙える砲撃システムを欧米に求める状況となっている。 バイデン米大統領は1日、ウクライナに対しHIMARS(ハイマース=高機動ロケット砲システム)を含むより近代的なロケット砲システムを供与する考えを明らかにした。装備されるロケットの射程は約80キロと、これまで供与されたどの兵器の水準をも大幅に上回る。 これはウクライナ政府にとって歓迎すべきニュースだが、ロシアが東部での攻撃を展開する中、国際メディアによるウクライナ報道は多少トップの扱いから後退しているのが実情だ。そしてプーチン氏はその傾向に期待している可能性がある。おそらく念頭にあるのはエネルギーの価格高騰と消費者物価の上昇だろう。どちらの動きもウクライナでの戦争で拍車がかかっており、米国と他の国々の世論はこの問題に集中する公算が非常に大きい(ひいては選挙の結果をも左右するだろう)。 プーチン氏はまた、外交問題に対する関心がすぐに薄れることも計算に入れているかもしれない。2015年、立て続けに敗北を喫していたシリアのアサド政権への支援を強化したのは他ならぬプーチン氏その人だった。シリアでの戦争は12年目に突入し、今なお続いているが、すでに世界の注目はウクライナへと移っている。 その点で、ゼレンスキー氏はウクライナが情報戦を戦う上での最大の武器の一つになっている。同氏はオンラインで世界中の議会に立て続けに姿を現し、各国の指導者にメッセージを送る。プーチン氏をなだめようとウクライナに向かって領土を割譲するよう求めかねない指導者に対しても、結果的にどうなるかを決めるのは自分ではなくウクライナ国民でなくてはならないと釘をさす。 しかし国内のあらゆる政敵を破滅に追い込み、メディアを効率よく支配するプーチン氏は、ゼレンスキー氏と同じような国内における圧力には直面していない。ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記は最近の発言で、ロシア軍はウクライナで「期限を求めていない」と言及。プーチン氏がはるかに制約の少ないスケジュールでウクライナにおける自身の戦争を遂行していることを示唆した。反対にウクライナ軍は、国際社会が戦争に疲れた状態に陥ることを危惧する。それに伴って各国から自国の政府に対し、プーチン氏への譲歩を迫る圧力がかかるのではないかとの懸念を抱いている。 「そっちには時計があるが、こっちには時間がある」。捕らえられたタリバンの戦闘員が発したともされるこの言葉は、アフガン戦争を戦う米国のジレンマを端的に言い表すものだった。そこで嫌々ながら認めているのは、反乱が異なる政治的地平とスケジュールで遂行されていたという点だ。反乱する側の戦闘員らは、技術的に優位な米軍を打ち負かす必要はなく、ただ持ちこたえていればよかった。 このフレーズを流用する場合、ウクライナで決定的な要因となりそうなのは、時間があるのは果たしてどちらかということだろう。死ぬまで権力を握ったままでいそうなロシアの独裁者なのか、それとも国家の生存をかけて戦うウクライナの国民なのか。
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