悪夢の耐性菌、国内にじわり 感染症発症後は薬ほぼ無効
2019年12月15日
既存の抗菌薬がほぼ効かない海外発の強力な薬剤耐性を持つ大腸菌などの腸内細菌が、国内で増えつつある。国立感染症研究所(感染研)によると、検査を始めた2017年は13例だったが18年は42例。確認された地域は、1年間で6都県から16都道府県に広がっていた。
【写真】「悪夢の細菌」と呼ばれるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌
分析した耐性菌は、抗菌薬の「最後の砦(とりで)」とされるカルバペネムが効かない腸内細菌科の菌のうち、薬の成分を壊す酵素をつくる海外型の耐性遺伝子を持つタイプ。国内で使える抗菌薬がほとんど効かないことが多い。
今回見つかった計55例のうち、渡航歴がないか不明なのは4分の3の41例。健康な保菌者からもらっている可能性もある。「感染経路は不明だが違うステージに入ってきたようだ」と感染研の菅井基行・薬剤耐性研究センター長は話す。
薬剤耐性があってもなくても、腸内細菌科の大腸菌や肺炎桿菌(かんきん)は人のおなかにいて普段は無害だ。抵抗力の落ちた人では、肺や血液に入ると重い感染症を起こす。その治療で、重要な切り札となるカルバペネムが効かないことが世界的な問題になっている。
欧州疾病対策センター(ECDC)が18年に出したリスク評価によると、カルバペネム耐性の腸内細菌科細菌(CRE)で起きた重い感染症の死亡率は30~75%。血液に細菌が入る菌血症では50%を超える。米疾病対策センター(CDC)は「ナイトメア・バクテリア(悪夢の細菌)」と呼び、最も脅威の高い耐性菌に位置づけている。
WAGYU欧州で急増 日本産の遺伝資源 流通網の追跡を 畜産技術協会調べ
2019年12月15日
和牛の遺伝子を持ち、海外で飼養された肉用牛「WAGYU」の生産が欧州で急速に増えていることが、畜産技術協会の調査で分かった。米国やオーストラリアから和牛受精卵や精液が欧州に導入され、欧州産まれの和牛の純粋種や交雑種(F1)が、国境を越えて欧州内や中東に輸出されている。輸出を狙う日本産和牛肉との競合が懸念される一方、世界的な視点で和牛遺伝資源の把握が重要と同協会はみる。
和牛の遺伝資源が、国境を越えて頻繁に往来している実態が浮き彫りになった。1976年に米国へ流出したのを契機に、米国やオーストラリアを起点に各国で急速に生産が増えてきた。
ドイツでは2014年に94頭だった繁殖雌牛が17年に282頭と3倍に拡大。英国、スペインでは、2000年代前半に米国やオーストラリアから遺伝資源が導入され、2000年代後半に動きが本格化した。オランダやニュージーランドからも精液や受精卵が輸入され、受精卵移植(ET)を利用し、急速に増えている。受精卵は1個6、7万円ほど。精液はストロー1本が1450~2900円という聞き取り調査の結果も報告する。
購入した受精卵や精液を基に牛群を造り、14頭もの優良種雄牛をそろえた牧場もある。生産したフルブラッド(純粋種)の雄牛をアラブ首長国連邦(UAE)に売る予定があるという話や、ルーマニアやポルトガルに販売したとの聞き取り調査結果も紹介する。
純粋種、F1の取り組みは多様。出荷月齢は、14カ月齢の子牛で出荷する経営体がある一方、2歳を過ぎてから1年間の肥育期間を設ける経営体もあった。
英国の生産者は、系列レストランや直売所でWAGYU肉を販売し、香港への輸出経験もあった。ロンドン市内では、スペイン産や南米産のWAGYU肉が販売されている。和牛の遺伝資源も牛肉も国を越えて動いている。調査報告では生産・改良・流通を世界規模で「把握することが重要」としている。
調査は「Wagyu肉生産・流通等実態調査事業」。日本中央競馬会の助成を受けて昨年から始まり、英国やスペイン、ドイツで現地調査した
いじめを訴える文章、そのまま教室に掲示 栃木の小学校
2019年12月15日
栃木県内の市立小学校で昨年7月、6年生の男子児童がいじめの被害を文章で訴えたのに、担任の男性教諭(42)が対策をとらず、名前入りの文章をそのまま教室に張り出していたことが分かった。市教委は今年3月、対応が不適切だったと認め、教諭と当時の校長に口頭で厳重注意とした。
児童の家族や学校によると、担任の教諭はクラス全員にいじめに関する新聞記事を読ませ、感想を書かせた。上級生や同級生から日常的にいじめを受けていた児童は家族と相談の上、「3年からいじめが続きました」「全身にどろをかけられ、プロレスといってぼうこうもされました」「今も続いているため対応してほしい」などと書いて提出した。
しかし、担任は相談に乗ることなく、赤ペンで「その痛み、つらさを知っているからこそ、人に優しくなれる」「負の連鎖をどこかで断ちきろう」などと感想を書き込み、他の児童の文章と一緒に教室に張り出した。1週間ほど張り出され、ショックを受けた児童は家族にもすぐには打ち明けられなかったという。
いじめはその後も続き、3学期に入って児童が休みがちになったため、家族は今年2月、学校を訪問。校長はこの時、初めていじめ被害や文章が張り出されていたことを知った。担任は市教委に対し「(児童の気持ちに)思いが至らなかった」と話したという。市教委は教諭を今年度、クラス担任から外した。
両親は「相談しても、まともに応じてくれなかった。助けを求める文章を張り出すなんて、人としてどうなのか」と語った。
市教委側は「教員として絶対してはいけないことで弁解の余地はない。すべての学校でいじめに対して真摯(しんし)に対応するよう指導していく」と話している。
■東京理科大学の中村豊教授(生徒指導)の話
男児が助けてもらいたくて書いた文章を他の児童に読まれたくないことは、寄り添っていれば、くみ取れたはずだ。安易に掲示したことは不適切な行為といわざるを得ない。学校側も担任教諭が問題を抱え込まないよう情報共有を進め、教室の状況を把握できるような行動をとるべきだった。
トランプ氏の弾劾訴追条項案、下院司法委が可決…来週にも本会議で採決
2019年12月14日
米国のトランプ大統領を巡るウクライナ疑惑で、下院司法委員会は13日、審議を再開し、トランプ氏の弾劾(だんがい)訴追条項案を賛成多数で可決した。下院多数派の民主党は、来週にも本会議で弾劾訴追決議案の採決を行う方針で、決議案は可決される公算が大きい。
起訴理由にあたる条項案は、「権力の乱用」と「議会に対する妨害」の二つだ。司法委での採決は当初、12日に行われる予定だったが、弾劾に反対する共和党側が審議の引き延ばしを図り、13日に持ち越されていた。採決では、委員会所属の41人のうち、民主党は欠席の1人を除く23人が賛成、共和党の17人は反対した。
ホワイトハウスのグリシャム報道官は13日、「下院司法委における自暴自棄で見せかけだけの弾劾調査は恥ずべき結末に達した」との声明を発表した。
下院が弾劾訴追した場合、上院多数派の共和党は1月に弾劾裁判を開く方向で検討している。トランプ氏が有罪となり、罷免(ひめん)されるには上院議員の3分の2の賛成が必要だが、共和党内で弾劾を支持する動きは広がっていない。
条項案は、トランプ氏がウクライナ政府に、政敵である民主党のバイデン前米副大統領に関する捜査を求めたことについて、「個人的な政治上の利益を得るために大統領権限を乱用した」との判断を示している。ウクライナ政府が捜査着手を表明することが、ウクライナの求める軍事支援や首脳会談を実現する「条件」になっていたとも指摘した。これについて、トランプ氏は全面的に否定している。
「1月末に必ず離脱」と英首相
2019年12月14日
ジョンソン英首相は13日、総選挙での勝利確定を受けて演説し、欧州連合(EU)から「予定通り来年1月末までに離脱する。言い訳はしない」と強調した。
米中、貿易協議「第1段階」合意 追加関税の発動見送り 来月めど署名
2019年12月14日
米中両政府は13日、貿易協議の「第1段階」で正式合意したと発表した。
15日に予定していた米国の制裁関税と中国の報復関税の発動を見送るとともに、米国は発動済みの追加関税の一部を引き下げる。関税緩和の動きは貿易戦争が本格化した昨年夏以来初めてで、米中関係は大きな転換点を迎えた。
中国政府の発表によると、第1段階の合意は農産品、知的財産権の保護、技術移転強要の問題、金融サービス、為替、貿易拡大、紛争処理など9項目。来月をめどに両国の閣僚級がワシントンで合意文書に署名する方向だ。
トランプ米大統領は「非常に大きな合意に達した」と述べ、幅広い協定を目指す「第2段階」の交渉を急ぐ考えを示した。来年秋の大統領選を控えて農業分野の成果を優先し、難航する不公正貿易慣行の問題の多くを先送りして譲歩した。
トランプ氏が今年10月に第1段階の暫定合意を表明後、米中は合意文書の作成を進めてきた。だが、米国が中国に米農産品の大量購入を強く要求したのに対し、中国は発動済みの制裁関税の撤回を突き付けて交渉が難航した。
米国は、制裁関税を上乗せしている中国からの輸入品計3700億ドル(約40兆円)分のうち、昨年の第1~3弾で2500億ドル分に課した25%は据え置き、今年9月に発動した第4弾の1200億ドル分を現行の15%から7.5%に引き下げる。合意文書に署名後、30日後に実施する。
ホワイトハウスは、中国が農産品やエネルギー資源、工業品、サービスを含む2000億ドル相当の米国産品を購入すると説明。農産品の規模は今後2年間で平均400億~500億ドル相当としているが、中国政府は数値目標を明らかにしていない。
日本政府、英保守党大勝に安堵 安倍首相「予測可能性高くなった」
2019年12月14日
英総選挙でジョンソン首相率いる与党・保守党が大勝したことを受け、日本政府内には安堵(あんど)の空気が広がっている。
日本企業に悪影響が出かねない欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」が回避される公算が大きいとみているためだ。安倍晋三首相は13日の講演で「英国がEU離脱でどういう道を通っていくのか、予測可能性が高くなった」と指摘した。
日本の政府内や経済界には「合意なき離脱」に至った場合、英国とEU間の通関や物流の混乱から、英国に進出した日本企業が不利益を被るとの懸念があった。だが、保守党が過半数を獲得したことで、10月に現英政権がEUと合意した離脱案は議会承認が得られる見通しだ。
離脱混迷、決着求めた有権者 国論二分で疲労感 英保守党地滑り的勝利
2019年12月14日
英総選挙は、欧州連合(EU)からの離脱を公約した保守党が大きく議席を伸ばし、圧勝した。2016年の国民投票でEUとの決別が選択されてから3年半。選択が実現しないまま国論が二分され、社会には疲労感が広がった。保守党の地滑り的な勝利は、有権者が離脱をめぐる混迷に終止符を打つことを強く望んだ結果だ。
「EU離脱を成し遂げ、国を前に進めよう」。保守党を率いるジョンソン首相は1カ月余りの選挙戦で、離脱の実現ほぼ一点に主張を絞り込んだ。大敗した最大野党の労働党が、EU離脱についての立場にあいまいにし、医療制度の充実や社会格差の是正といった内政問題を論点にしたのと対照的だった。
内政問題は選挙戦の後半に争点として多少の広がりを見せたものの、離脱問題が「唯一の重要な争点」(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス=LSE=のサラ・ホボルト教授)であることは最後まで変わらなかった。
◇野党地盤取り込む
労働党が離脱について明確な態度を示せなかった背景には、同党が優勢な地区でもイングランド南部ではEU残留派が多く、北部や中部では逆に離脱派が多数という事情があった。
保守党はこの点を突いた。北部、中部に集中する「赤い壁」と呼ばれる労働党の地盤にジョンソン首相自らが乗り込み、不満を抱えた離脱派を取り込むことに成功。旧産炭地のブライスバレーやワーキントンといった労働党の古くからの牙城で次々に勝利を収めた。
選挙分析の大家として知られるストラスクライド大学のジョン・カーティス教授は、労働党の地盤での保守党の優勢を念頭に「離脱問題は政党の支持基盤に極めて大きな変化をもたらした」と述べ、選挙戦の様相が従来と一変したとの見方を示した。
保守党が大勝したことで、首相がEUとの間でまとめた離脱案は議会でスムーズに承認され、1月末に離脱が実現する見通しだ。専門家はジョンソン氏の党内基盤が大幅に強化されるとみている。政治学者のサイモン・ヒックス氏は、24年に予定される次の総選挙を超え、10年に及ぶ長期政権の可能性すら指摘した。
◇離脱めぐる分裂癒えず
EU離脱問題は英社会に深刻な分裂をもたらした。国民投票では離脱支持が約52%、残留が約48%と僅差だったが、各種の世論調査によれば、拮抗(きっこう)した状態に今も大きな変化はない。
首相は勝利宣言で「国を一つにまとめるための国民の負託を得た」と強調してみせた。だが、LSEのホボルト教授は「離脱問題は英政治の分裂を示す中心的な存在となった。修復は容易ではない」と指摘した。
1からわかる「ブレグジット」(1)なぜEUから離脱したいの?
2019年12月14日
ニュースでよく聞くイギリスのEU=欧州連合からの離脱問題。
ずっともめているイメージだけど、そもそもどういうことなんだっけ?
私たち日本人にも影響あるってホント?
前ロンドン支局長の国際部デスクに1から聞きました。(2019年4月取材、10月11日改訂)

「ブレグジット」は「Britain(イギリス)」+「Exit(出口)」の造語です。

解説してくれたのは、国際部の松木昭博デスク。
経済部の記者として電機メーカーや財務省などを担当。その後、ロンドンに支局長として赴任、現地で実際にブレグジットを取材していました。
学生
田嶋
よろしくお願いします。松木さんがロンドンで取材していたのはいつ頃ですか?
ロンドンにいたのは2013年7月から2016年7月までの3年間。ちょうどその一番最後、2016年6月にイギリスで国民投票があって、EUから離脱することが決まってね。
松木
デスク
日本に帰ってからも引き続きこの問題を担当しています。


「ブレグジット」そもそものギモン
なぜイギリスはEUから離脱したいの?
学生
高橋
この問題、そもそものところがよくわからなくて。なぜイギリスはEUから離脱したいのですか?
EUのルールに縛られたくない、自分たちのことは自分たちで決めたいという思いが強いんです。

EU加盟国は28か国あるから、28か国で話し合っていろんなことを決めていかないといけないんですよ。合意した以上はルールに従わなきゃいけないけど、自分たちはこうしたいのにその通りにできないという不満がイギリスには根強くあったんです。


具体的にはどんな不満があったんですか?
特に国民投票のときにポイントになっていたのは移民の問題ですね。
移民の中でもEUの中で移動してイギリスに来る移民の問題が大きかったんです。


EUの中から来る移民ですか。
EUの中では人の移動が自由で、国境検査をしないで自由に動けるようになっているんですよ。ヨーロッパ旅行をしたことはありますか?


はい、あります。
電車に乗っていて国境を越えてもノーチェックで行けるんですね。

イギリスはEUの中では比較的景気がよくて仕事がたくさんあるということで、東ヨーロッパとか経済の調子がよくないところから多くの人が入ってきていた。


2008年以降の移民の純増減数を示したグラフ。
上から2つ目、青い折れ線グラフがEU内からイギリスへの移民。2012年頃から国民投票でEU離脱を決めた2016年頃まで右肩上がりで増えている。

国民投票で離脱を決めた2016年頃は、EU各国からの移民だけで大体年間20万人ぐらい純増していたんです。

移民の人たちも基本的にはイギリスの行政サービスを受けられるので、例えば病院が混んだり、小学校も増やさなきゃいけないとかそういうことが出てくる。


お金がかかるということですね。
そうそう。でも税金は払っているので、ちゃんと義務を果たして、権利を受けているんだけどね。

ただ、どうも肌感覚的に移民が多すぎるんじゃないかという気持ちが募っていったんです。


どうしたらいいんですかね。
EUの外から来る移民に対してはイギリスの権限で、東南アジアからはこれぐらいの人を受け入れる、インドからはこれぐらいとか、多すぎたら自分たちで制限して減らしたり、こういう人材が欲しいと思ったらそっちを増やしたりとか、そういうことができるんだよね。

だけどEUの中では人の移動が自由だから来たら基本的には制限できないんですよ。


法律を作ってもだめなんですか?
イギリスが法律を作っても、それがEUのルールに合わなかったらその法律は無効になってしまうんです。


それでEU離脱しか方法がなかったということですか。
そう。EUから出て、自分たちのことは自分たちで決められる権限を取り戻したいという思いが強まった。

当時よく言われていた言葉で「テイクバックコントロール」という言葉があって、自分たちの手でコントロールする、権限を取り戻そうという意味なんですね。


松木さんご自身もイギリスで暮らしていたときに、「移民が多いな」という感覚はありましたか?
あるといえばあるし、ないといえばなかったかな。ロンドンはもともといろんな国の人がいるところなので。



観光とかですか?
観光もそうだしビジネスもそうだし。あと、イギリスは昔から大英帝国時代の植民地も含めて世界中の国々と付き合いがある。

だから、インド系の人もいるし、アジアやアフリカ系の人もいるし、ロンドンではそれが当たり前なんです。増えているといえば増えているけど、もともとそんな感じだよねという感覚でしたね。

だけど、郊外に行くとね。郊外って、日本でもそうですけど、外国人がいると目立つでしょ。


そうですね。

街のあちこちで東ヨーロッパからの移民のための商店が目につくようになって、言葉も英語がネイティブじゃない人が増えて…というような変化は確かに起きていて、肌感覚として感じることはあったと思います。

それと、これはEUからの離脱を決めた2016年の国民投票の結果なんですけど。



紫の「EUに残るべき」と答えた人が多いのは、ロンドン周辺とスコットランドと北アイルランド。大都会以外のところは、ほぼ「離脱すべき」の赤ですよね。


すごい…。こんなにはっきり分かれているんですね。
だけど、移民の人たちは邪魔者なのかというと、絶対そんなことはなくて。たとえば移民の人が多く従事する農場や工場での仕事は肉体的に大変だし、給料だって金融とかに比べれば安いわけで。

イギリスの人があまりやりたがらない仕事をやってくれて、お金をためていずれは故郷に戻ろうという人もたくさんいたんですよね。

ただあまりに人数が増えて、それを自分たちで制限できないというのはやっぱりよくないという意見が郊外ほど強かったということなんですね。


「イギリスらしさが失われていく」とかそういうこともあるんですか?
そうですね。そういう言い方をする人もいましたね。さらにもうひとつ、離脱したい大きな理由があったんだけど、それが貿易。


貿易ですか。
EUの中にいると、EUの外の、例えばアメリカや日本と貿易交渉をするとき、自分たちではできないんです。EUとして交渉する。

最近も日本とEUのEPAが発効したというニュースがあったけど、知っていますか?ワインやチーズが安くなるとか聞いたことない?


聞いたことあります。

あのEPAは日本とEUが交渉してまとめたのね。

貿易交渉をするときは、イギリスも含めた加盟国の意見を反映させてやるんだけど、やっぱりイギリス独自でやりたいこととか、得意な産業、守りたい産業がある。

28か国もあるとみんなの利害を調整して合意を作っていくのは大変だし、時間もかかるんですよね。


確かにそうですよね。
イギリスは、GDPの規模が世界で5番目の経済大国なんですよね。だからEUから離れても自分たちだけで十分やっていけるはずだという自負もある。

世界中に大英帝国の頃からの仲間もいる。直接交渉すれば時間もかからないし、もっとイギリスの利益に合った交渉ができるはずだという思いが強かったんです。

あとは、もともとEUに対するスタンスもほかの国とは少し違っていたんだよね。


どう違うんですか?
そもそもEUって何ですか?

EUの成り立ちを少し整理しようと思うけど、第2次世界大戦ではヨーロッパも戦場になりましたよね。その反省から二度とヨーロッパで戦争を起こさないようにしようと、そのために作った仕組みが今のEUのきっかけなんですよ。


そうなんですか。
社会科で勉強したことがあるかもしれないけど、ECSC=ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体って聞いたことあるかな。

1950年代にフランスと西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクが始めたんだけど。

戦争に発展した争いの原因のひとつでもあった石炭や鉄鋼を共同で管理、生産して経済的利益を共有すれば、けんかしにくくなるでしょうと始めた仕組みが徐々に大きくなってEUにつながっていったんです。


そうだったんですね。
そういう意味で言うとイギリスは戦勝国で、戦争の反省というスタンスにはならないわけです。物理的に大陸と離れていることもあって、当初イギリスはECSCには入らなかった。

その後、ECSCをきっかけにEC=ヨーロッパ共同体ができて、みんなで大きな市場を作っていこうという機運が高まっていった。後のEUへとつながる地域統合の道を歩み始めたんです。

イギリスも経済の低迷などもあって、一緒にやったほうがいいのでは、という方針に変わっていって、1973年に当時のECに加盟したんです。つまりイギリスとしては経済的な動機が大きいわけなんですよ。


一人で戦うよりは、ということですね。
そうそう。戦争を起こさないという理念よりは経済的な利益を取りたいというね。

その後、ECはどんどん大きくなって東ヨーロッパの国々も入ってくるようになった。今まで全然違う経済の仕組みでやっていた国も仲間として受け入れるためには制度を共有しないといけない、資金援助もしてあげないといけない。

そのために経済だけではなくて、政治的にも権限のある組織にECを変えていかないといけないという流れになっていった。それで1993年にEUができた。


流れは、よくわかりました。そうなりますよね。
でも、経済的な動機が強いイギリスからすると、「いや、我々はもともと経済のために参加したんだから」ということになる。

EUはどんどん統合が「深化」して、バラバラの国の集まりだったのが1つの国みたいに権限を持つようになっていくんだけど、そうなるとイギリスとしては距離を置きたいわけですよ。自分たちの権限を守るために。


例えば通貨。EUの多くの国はユーロという通貨を共有しているけど、イギリスの通貨は?


ポンドですか。
そう、ポンド。イギリスはEUに加盟しているのに独自の通貨と中央銀行を持っている。これも自分たち流にやりたいことを実現するために非常に重要なツールなんですね。

たとえば景気が悪くなって対策をするときに、複数の国のバラバラの経済をコントロールするより、イギリスだけで判断できたほうがいいでしょう。

あと、さっきEU内では人の移動が自由で、国境を越えてもノーチェックで行けると言いましたよね。でもイギリスに行くときは一応チェックされて入国カードとか書くんですよ。


そうなんですか。
やっぱり国境管理は国としてやるべきだということで、独自のスタイルを維持してきたんです。

イギリスは、EUの中にいるんだけど、ちょっと距離を取るスタンスを保ってきた。仲間なんだけど意見は違うというのかな。

でもヨーロッパ側からすると、「イギリスはいいとこ取りをしているんじゃないの」というふうに感じるわけですよ。


私もお話を聞いていてそう感じました。


先ほどグラフを見せていただいて、2012年以降、移民が急増したというのはわかったんですけど、国民投票の2016年までわずか4年でEU離脱という結論までいってしまったというのはすごく短いように感じるんですけど。
それまでに蓄積されていたいろんな不満があったんですよね。

イギリスはEUに年間1兆円ぐらい予算を出しているけど、ヨーロッパ全体のために使われるものだからイギリスにはあまり戻ってこない。それだったら自分たちのために使えばいいじゃないかという不満があった。


そうなんですね。
それからEUって規制がすごく細かいんですよ。自分たちには必要ないと思われるような規制もEUのルールだからとそれに縛られてしまう。

たとえば1つの農地に必ず3種類の作物を植えないといけないとか。あとは、自動車のライトやブレーキランプの位置はここじゃないといけないとか、掃除機の吸引力をこれぐらいにしないといけないとかね。


えー!そんなことまでですか…。

いろんな不満があって、移民の問題もあったことで不満がピークに達して国民投票をやることになったんですね?
そうですね。まあでも国民投票をやったのはある意味、賭けだったんですよね。


どういうことですか?
今のメイ首相の前は、キャメロンさんという人が首相でした。このキャメロンさんが国民投票をやったんです。

イギリスには保守党と労働党という二大政党があって、メイさんもキャメロンさんも保守党出身なんだけど、この保守党というのは、もともとEUの在り方に不満を持つ人たちが多い党なんです。

それで、キャメロン前首相は党内の意見をまとめるのに常にすごく苦労していた。EUに出す予算を決めたら「そんなに出す必要があるのか」と言われたり、EUに優しい姿勢をとると「なんでそんなに妥協するんだ」と言われて。


そうなんですね。
この問題を抱えたままだと政権運営がうまくいかない。だったら一度、国民の信を問うて白黒はっきりさせよう、それでEUに不満を持つ人たちを黙らせようと考えたんです。

キャメロンさんは勝てると思っていたからね。5億人の市場で、ヒト・モノ・カネが自由に動くという最高の環境があって、その恩恵をイギリスはたくさん受けていると、そう訴えれば国民は必ずわかってくれると信じていたんです。


それが賭けということですね…
そう。でもその賭けに負けてしまった。


離脱の結論が出るのは想定外だったんですね…。


国民投票の結果に法的拘束力はあるんですか?
法的拘束力はありませんが、民主主義国家において、主権者の国民が示した結論というのは最大限、尊重されるべきでしょ。

だから、キャメロンさんの後任のメイさんも、「民意を実現するのが私の仕事だ」ということで、EUからの離脱を何とか実現しようと奔走しているわけです。


こちらからご覧ください
編集:水谷彩乃
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イギリス“EU離脱”日本企業への影響は?
2019年12月14日
12日に行われたイギリスの総選挙は、ジョンソン首相が率いる与党・保守党が過半数を大きく超える議席を獲得し圧勝した。
これにより、来月末にイギリスがEU(=ヨーロッパ連合)から離脱する事は確実な情勢。選挙の結果を受けジョンソン首相は13日、エリザベス女王に新政権を発足させることを報告した。
来週、議会を招集してEUと合意した離脱協定案の承認などの手続きを進める方針。
来月、EUを離脱すれば、各国との自由貿易協定の交渉が控えているが、専門家は、この交渉は難航が予想されるとした上で、物流の停滞などで日本企業に大きな影響が出る可能性があると指摘している。
大和総研・菅野センター長「進出した日本企業にとっては、もともとサプライチェーンを前提にして、自動車や医療品、医薬品を輸出していたので、このサプライチェーンが分断されると、まともにモノを輸出入できなくなる」
国民投票から3年半たち、イギリスはようやくEUからの離脱に道筋をつけた形だが、乗り越える課題は山積している。


